68. 王都
暫く馬車に揺られ、目的地である王都に到着する。
都心部でもあり、多くの様々な人々が行き来する活発な場所である。
シルクは馬車を降りると、早速目の前の人混みの光景に一歩後ずさりそうになる。
やはり素顔を隠すと言った対策を何もしていない時に人が多い場所に向かうのは慣れないな、と首元でぐるぐる巻きにしているストールを指先でつまみながらぐっと上げ、口元を完全に隠してしまう。
存在感を消す魔法薬を使用したい気持ちに襲われるが、実行してしまえばグレイ達からもシルクの姿が見えなくなってしまい混乱を生んでしまう為、ぐっと我慢した。
気持ちを誤魔化す様に顔を上げ、視界の先に広がる光景が人混みから空へと変わる。
曇り空が広がる中、高くそびえ立つ建物に自然と視線が移った。
王都のシンボルとも言える、国王が暮らしている立派なお城だ。
「いつ見てもでかいよねぇ、今の王様って何代目だっけ?」
城を見上げているシルクに並んで、グレイも視線を同じ方向に向ける。
「今は二十六代目だぞ。あと、王女様な」
カネルが補足を踏まえながら一緒に城を見上げる。
グレイはあぁそうだったね、と思い出したように呟きながらぐっと腕を上げて伸びをした。
「王女…」
シルクは城に視線を留めて固まる。
同時に、妙なもやもやとした感覚がシルクの頭の中で渦を巻くように蠢く。
頭の中で、ぼやけた風景が少しずつ露わになってくる。
…お城。王女。
……誰かの声が頭の中で響きわたる。
『君、まるで時が止まっているみたいじゃないか』
シルクははっとした表情のまま身体を強張らせる。
再び脳内に流れてきた記憶のようなもの。
この記憶は確か以前にも、グレイ達とアパートで話をしていた時に思い出していたものだ。
(…あぁ、そうか)
シルクはここで、とある記憶を思い出した。
自分は此処、王都に来た事がある。
それはずっと昔の出来事。
今目の前にある城が、建設途中である時の記憶だ。
―――
―――
シルク達はカネルに案内され、とある建物へと足を踏み入れた。
大きなビルが多く立ち並ぶ中でも、より目立つ立派な建物だ。
「魔法防衛省…初めて来たけど、本当でけぇところだな」
「シャロン、もう少し落ち着いてくださいよ。きょろきょろと首を振ってて変に目立ちそうです」
そう言うミュスカもそわそわと緊張した様子であるのを、グレイは後ろから微笑ましそうに眺めている。
グレイの後ろからシルクが静かについていくが、明らかにグレイの背後に隠れるようについてきている様子であるのを、カネルが振り返り際に気付く。
「シルクさんも緊張している感じかな」
「大丈夫だよシルク、此処はちゃんとした場所だから変な奴は居ないよ、多分」
「おい多分って言うなよグレイ」
カネルはへらへらと笑いながらシルクを宥めるグレイに対して呆れた表情を向ける。
シルクはぽつりと「大丈夫です…」と呟きながら口元のストールを再び上げる。
明らかに周りを警戒している様子にシャロンとミュスカは心配し、それぞれがシルクの横に並ぶように移動する。
「何かあった時は僕達がいますし、直ぐに言ってください」
「何なら先生を盾にしてもかまわねぇよ」
「さらっと僕を盾にしないでくれない?」
シルクは一瞬きょとんとするも、普段通りのグレイ達の様子に安心感を覚える。
完全に口元を覆っていたストールを少し下にずらし、静かに安堵の息を漏らした。
そうしてしばらく広い通路を歩き、エレベーターに乗り込んで上へと上がり、更に通路を歩き…
案内されるままカネルについていくと、とある扉の前で立ち止まった。
「ついたぞ、此処が普段僕達が使用している会議室だ」
カネルは扉の横に設置されている小さな画面の前に立ち、暗証番号を入力すると扉の鍵が解除される。
解錠音を確認し、そのままドアノブを捻って中に入っていった。
中では黒い軍服を着た三人の男達が各自の椅子に着席しており、一斉にカネル達の方へと視線を向けた。
「お疲れ様です隊長~……え」
「お疲れ様で……うわぁ」
「あ…ひぇ」
最初はきりっとした真剣な表情で各自立ち上がっていたのだが、カネルの後ろにいるグレイの姿を見た瞬間、表情は一変する。
驚愕して固まる者、顔を青ざめる者、魂が抜けるかのように脱力しそうになる者。
それにも関わらず、グレイは三人の姿を見た瞬間瞳を怪しくきらりと光らせた。
「やぁやぁ君達、久しぶりじゃないか!元気そうで何よりだねぇ!」
遠慮なくずかずかと会議室に入っていくグレイと、対照的に後ずさろうとする三人の男達。
その内の一人が必死な表情でカネルに訴えかける。
「た、隊長!客が来るのは聞いていましたが、この人が来るならちゃんと説明して下さいよ!!」
「あれ、アベルには伝えてたからそのまま皆に伝わっていると思ってたんだが…あと肝心のアベルが見当たらないな」
「彼奴黙ってやがったな!そして逃げやがったな!!」
その後グレイが遠慮無しに部下達に迫って行こうとするのを、扉付近にいるシルク達は静かに見守るのであった。
「こうなる事は予想していましたが、先生ったら本当相変わらずですね」
「このノリで関連施設に向かえたらどれだけ良い事か…」
「…ですね」




