67. 苦渋の決断
時は流れて二日後。
外は曇り空で、日中にも関わらず所々暗がりが立ち込んでいる。
そんな暗がりと連携するように、グレイはジト目で暗い表情を浮かべていた。
「うわー…嫌すぎる。仕方が無いけど、嫌すぎる」
「予想はしていましたけど腹を括って下さい。もうそろそろ迎えが来るはずですから」
グレイは着用している白衣で更に包まる様に自身を包み込み、広間のソファの端で三角座りになって顔を膝に埋もれさせる。
これから外出予定なのだが、行先の事を考えるとグレイは嫌だと言わんばかりに顔をしかめさせては、魂が抜けたように視線を上に向けて脱力したり、再びしかめっ面を浮かばせたりと忙しない。
そんな様子をミュスカは溜息交じりに宥めながら、シャロンとシルクが来るのを待っていた。
カネルと研究成果についてや今後の予定について話し合った日の翌日、つまり昨日に早速グレイのスマートフォンに連絡が届いた。
カネルは後輩だけでなく、依頼主である社長にも(主に安心させる目的で)情報を共有したのだが、そこで社長が動きを見せた。
パナシアンベリーを栽培する為に必要となる膨大な魔力を貯蓄する機械が必要になるのだが、その機械は是非我が社の物を使用してくれと言い出したのだ。
依頼主は有名会社の社長だとは聞いていたが、魔法道具や魔法機材といった魔法に関する道具を取り扱っている会社を創設した社長である、ということはこの連絡でグレイは初めて知って驚きの表情を浮かべるも、なら一々施設と交渉する手間が省かれるから丁度良かったと上機嫌で連絡の続きを読んでいく。
問題はこの後の一文。
『それと、パナシアンベリーの使用許可を貰うためにも実際に関連施設に赴いてくれないか。』
施設に赴くという言葉にグレイは白目を向けた。
スマートフォンの前で駄々をこねるように不満を言うも、最終的には仕方が無いと無理矢理割り切らせ、げっそりとした表情で了承の返信を送った。
そしてそれを実行する日は今日である。
「あーあぁ、関連施設に以前関わった野郎がいたらどうしようかな」
「考えすぎですよ先生、例えいたとしても無視すればいいんですから」
「いや…もしいたら両手で中指を突き立てるかもしれない」
「それは実際にはやらず心の中でやって下さい」
グレイが不貞腐れている中、シャロンとシルクも広間に集まった。
シャロンはグレイの様子を想像できていた為苦笑いを浮かべつつ慰め、シルクも無表情のまま労りの言葉を零した。
事情をよく知っているカネルも同行するのだが、グレイが何をしでかすか分からないから念のためと今回はシャロンとミュスカも共に行動することになった。
シルクはてっきり留守番だと思っていたのだが、カネルからの指名で一緒に来るようにと伝えられている。
魔力を貯蓄する機械は借りるのであって、直ぐに使用はしないはず。
なら自分が一緒に向かう意味は何なのだろう、とシルクは疑問になる。
それと同時に、カネルと実際に会った時の会話や裏魔法協会での出来事を思い出しては複雑な表情を浮かべた。
依頼と同時進行で探りを入れられてもなぁ、と静かに溜息を零す。
そろそろ時間だろうか、と時計を見ると同時に玄関からの呼び出しチャイムが鳴り響いた。
時刻は朝の九時、時間通りの訪問である。
「それじゃあ行きましょう先生、ほら早く立って!」
「はーい…はあぁぁ…」
「おい、俺の方にもたれかかるんじゃねぇよ!」
「博士、頑張りましょう」
広々とした廊下を進み、玄関を開けるとカネルがひらひらと手を振っている様子が視界に映る。
前回昼間に訪問してきた時と同じような優しい笑顔である。
「よう、久しぶりだなシャロン、ミュスカ」
「久しぶり!相変わらず元気そうじゃん」
「お久しぶりです、今日はよろしくお願いします」
シャロンとミュスカはカネルの姿を見るとぱぁっと笑顔を向ける。
グレイの友人であると同時に二人とも長く交流があり、どちらもカネルに懐いている。
そんな様子を無表情ながらも微笑ましいなと思っているシルクと、その隣で上の空な状態のグレイ。
カネルは苦笑いを浮かべながらも、直ぐに出発するぞと促して皆で馬車乗り場へと向かった。
馬車乗り場に辿り着くと、次の馬車が来るまでの間に本日の動きの流れを振り返ることにした。
「馬車でこのまま王都に向かうんだが…先に関連施設に向かっておくか?」
「うげぇ」
グレイが分かりやすく嫌そうな表情を浮かべる。
予想通りだなとカネルは薄く笑いながら溜息を零し、追加でもう一つの提案を挙げた。
「もしくは、魔法防衛省に向かうかだな。社長が例の機械を僕のところに早速送ってきてな、先に回収しに向かうか?」
魔法防衛省は行政機関であり、その中の組織の一つとして魔物討伐特攻隊が含まれている。
シルクはぴしりと固まるかのように身体を強張らせた。
目的は機械の回収と言えど、魔物討伐特攻隊に足を踏み入れることになるのだ。
「…そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ?」
「いえ…何でもありません、大丈夫です」
一瞬シルクまでもが嫌そうな表情を浮かべたのだが、瞬きと同時に無表情に戻った為、カネルは軽く首を傾げた。




