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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第二章:難題な依頼
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64. 懸念

時刻は夕方頃。

シャロンとミュスカが魔法学校から帰宅し、いつものように自室に戻ろうとしていた。

しかし階段を上る途中で二人はぴたりと動きを止める。


狐面を付け、口元をストールで覆い、ローブのフードを深く被った状態のシルクが降りてきて、シルクも二人に気付いて立ち止まる。



「…お疲れ様です」


「あれ、シルクさん、もしかして今から仕事ですか?」


「彼奴から呼び出しか?」


「いいえ…少し、確認したい事があるのと…」



シルクは声を少し籠らせながら静かに呟き、視線を斜めに逸らす。



「…やはり、この姿じゃないと落ち着かなくて」



そう言って二人の間を通るようにシルクは階段を降りていき、そのまま玄関へと向かってしまう。


二人はぽかんとした表情でシルクの後ろ姿を見守るも、その後直ぐにばたばたと二階へと向かった。

そしてそのまま研究室へと直行する。




「只今戻りましたよ先生!」


「おいグレイ!シルクに何があったのか知ってるか!?」


「うおぉっ!お、おかえり二人共」



勢いよく扉を開かれたグレイは驚きながら二人に視線を移す。

作業台には相変わらず何枚もの資料が散らばっている。


そして、シルクの様子が変であった事を問われると、グレイは昼間の出来事を思い出しながら複雑な表情を浮かべる。




「あー…実は今日、カネルが来たんだよね」


「え、カネルさんが?」


「カネルが来るの今日だったのかよ、何だよ言ってくれれば良かったのに…てことはシルクも会ったって事か?」


「そうそう、まぁそうなんだけど。今日連れてきてた部下がなかなか鋭い奴でね…カネルも同様にだけど、シルクが参っちゃう程質問攻めされちゃってね」




グレイは昼間の出来事を思い出しながら苦笑いする。


魔力測定器にてシルクが桁違いな数値を叩き出してからは、どのような魔法が得意なのか、何故飛行用でない箒を使用していたのか…沢山の質問をぶつけられる羽目になってしまう。


しまいには仕事内容についてや、何故一人で活動しているのかを問われると、答えられる範囲で淡々と答えていたシルクは流石に眉間に皺を寄せて表情を陰らせた。



「…私は一人でやる方が向いているんです。詳しい内容は言えません、ごめんなさい」



そう言ってシルクは静かに立ち上がり、会釈をすると逃げるように広間から出て行ってしまった。


グレイはジト目でカネル達を軽く睨み、限度があるだろうと訴えるも、「それはグレイには言われたくないセリフだな」とカネルから言い返され不貞腐れてしまう。

カネルは少々やり過ぎたかと反省している様子だが、アベルは納得いかないと言わんばかりに不満気な様子であった。



その後はグレイが強制的に今後の予定について話題を切り替え、カネルの後輩と日程を合わせる必要があるという事で、再度連絡するという事で話は終わる。

ついでにグレイはアベルに向かって意気揚々と魔法植物について語りだし、呆れたカネルが止めに入るまで熱弁を続けていたのだが、これはカネルが部下を連れて来た時のいつもの流れである。



一通り昼間の出来事を聞いたシャロンとミュスカは互いに顔を見合わせ、先程すれ違ったシルクの様子を思い浮かべては複雑な表情を浮かべる。




「もし今日のことがきっかけで、また人と関わることに抵抗するようになったらどうするんだよ…」


「カネルさんは僕達もよく知っていますから、そちらは説明すれば大丈夫として…今日連れていた部下の人、シルクさんを参らせる程って一体どんな人なんですか」


「カネル曰く優秀な部下だとは言ってたよ、あとシャロンよりも目付きが鋭かったね」


「俺の目付きと比較するなよ」



シャロンはむっと不機嫌そうにグレイを睨むが、やっぱりあの部下の方が鋭い目付きだったなーとグレイはぼんやり考える。

そして同時に軽く溜息を吐く。

懸念していた事ではあるが、まさかここまでシルクを困惑させてしまうとは。


研究に関しては協力的だが、もし今後自室に引き籠ったり仕事ばかりで不在になる事が多くなってしまい、直接面と向かって会う時間が減ってしまえば、どうも後味が悪い。

普段から感情を表に出さないシルクだが、少しずつ温かな感情を露わにするようになってきている。

それが再び表に出さないようになってしまうのは避けたいところだ。




「…まぁ、今深く考えてもどうにもなりません。僕は夕食の準備をしてきます…あ、ちなみにシルクさんがいつ戻ってくるとか聞いてます?」


「確認することがあるって言ってたし、そのまま仕事を引き受ける感じではなさそうだったからねぇ、そう長くはかからないんじゃないかな。日付が回る前には戻ってくるはずだよ」


「じゃあ簡単に夜食も作っちゃいましょうか…」


「…ミュスカって最近また料理にはまりだしたよな」




シャロンからの指摘にミュスカは一瞬肩を揺らし、若干照れくさそうにするのを誤魔化すように口を尖らせる。



「新しく買った料理本があるので、色々試してるんですよ。それに、シルクさんが平気で食事を抜こうとするのをどうにかしたいですし…あ、勿論先生もそうですからね!」



そう言い残してミュスカは早歩きで自室に戻っていった。

グレイは微笑ましそうにし、シャロンは揶揄うような笑みを浮かべながらミュスカの後ろ姿を見守っていた。



シルクは食欲が無く、アパートに来るまでは食事を全く摂っていなかった。

その事実を知ってから、ミュスカはシルクへ食事の重要性を説いたり、消化の良い食事を始めに料理を工夫しては提供している。

シルクから手料理を褒められたのが凄く嬉しかったというのもあり、ミュスカが料理当番の際は張り切って料理しているのだ。


その甲斐があってか、シルクは毎日食事を摂るようになっていた。

元々食べることが好きだったというのもあるのだろうが、仕事が無い日は一日三食しっかりと、仕事がある日は簡単に食べられる弁当を準備してはシルクに持たせている。


学校もあって忙しいのではとシルクから申し訳なさそうに言われたこともあるのだが、自分達が学校で食べる弁当をいつも作っている為、そんなに変わらないと言って作り続けている。

夜食に至ってもグレイが夜通しで研究している際に作ることもあり、ミュスカにとってはいつも通りの感覚だ。


しかし、最近のミュスカは楽しそうに料理をしている。

グレイとシャロンはそれに気付いているのだが、敢えて口には出さず見守っていた。




「さて、ミュスカも張り切ってる訳だし、僕も今のうちに出来ることをやっておかないとねぇ。追加の肥料の調合と、魔力を貯蓄する機械を借りる手続きと、ビニールハウスを建てるのに必要な材料を揃えないと」


「先生のスケジュールって急に忙しくなるよな、それどうにかした方がいいんじゃねぇの?」


「あはは、思い立ったが吉日ってやつだよ。出来ると思った時にやる、それが丁度今のタイミングってだけさ」




作業机に散らばった資料のうち一枚を取り出し、掲げるようにして眺める。

誰も試みたことのないパナシアンベリーの栽培。

それをこの身で実行できることをわくわくさせ、グレイはにんまりと笑みを浮かべた。

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