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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第二章:難題な依頼
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59. 警戒

「失礼します」



シルクは広間に入ると、一瞬強張る様に固まる。

グレイ達が一斉にシルクの方へ振り向いたのだから無理もない。

グレイに至っては扉に背を向ける位置であるにも関わらず、ぐるりと勢いよく振り向いていた。


そんなに待たせてしまっただろうか、と申し訳なさそうに軽く眉を下げて三人の元へ近付いた。




「待っていたよシルク…取り敢えず、先に自己紹介しておいてくれ、僕は追加の珈琲を持ってくるから」


「あ、逃げるなよグレイ…あらら」




グレイは直ぐに戻ってくるからと言いながらそそくさと広間を出てしまう。

普段の笑顔に焦りが混じっている事に気付き、シルクは首を傾げる。


研究の成果を先に説明しているはずだが、何か大事なところが抜けていたのだろうか。

しかしグレイは自信満々な笑みでまとめたデータを抱えていたのだ。

それに気になる事は徹底的に調べて理解するまで止まらないのがグレイの本質だ、抜けがあるのは考えにくい。


シルクはそう思考を巡らせながら、静かにソファに座った。




「…初めまして」


「初めまして。そう緊張しなくても大丈夫だよ」



カネルはそう言って笑顔を浮かべるが、人の感情に敏感な方であるシルクは、笑顔の中に微かに警戒心を抱いている事を読み取る。

グレイの友人と言えど、相手は魔物討伐特攻隊の隊長。

仕事で直接会ったことは無いが、部隊の一員から探りを入れられたことに対してシルクなりに警戒してしまう。


普段から無表情であることが今では唯一の救いだろうか、と自虐的に考えながら自己紹介を始めることにした。



「シルクと言います。只の魔法使いです」


「只の、ねぇ…グレイから簡単に聞いたんだけど、何でも屋をしているんだって?」


「はい、そうです」



無表情のまま軽く頷く。

グレイが何処まで説明したのかは不明だが、この様子だとざっくりとした表面上の事しか説明されていないようで、シルクは心の中で安堵する。


ふと、カネルの隣にいるアベルに視線を移す。

しかしやたらと刺さるような視線を向けられ、直ぐに視線を逸らしてしまう。

以前シャロンとミュスカから穴が開くような視線を向けられた時のように、他人から凝視されることはやはり慣れないのだ。



「アベル、そんなに睨んじゃ駄目だろ…すまんな、アベルは元々目付きが鋭い方なんだ」


「…睨んでいるつもりは無いんですが」


「いえ…」



確かに三白眼で目付きが鋭く、睨まれてるように見られても可笑しくはない。

シャロンも吊り目で目付きは鋭い方だが、圧は圧倒的にアベルという男の方が強いな、と視線を逸らしながら心の中で呟く。




「僕達も簡単に自己紹介しないとな…カネル・ジャスティだ。魔物討伐特攻隊の隊長を務めている」


「アベル・オネストといいます。隊長の部下です」


「…よろしくお願いします」



互いに簡単な自己紹介を済ませたところで、グレイが追加の珈琲を持って広間にやって来た。

そうして四人が集合したところで、グレイがこほんと咳ばらいをする。




「さて、君達が色々と気になっていることは承知の上だけど、先にパナシアンベリーの栽培方法について説明させてくれよ」


「はいはい、わかってるよ。後でじっくり色々と聞かせてくれ」



何故私の方を見ながら言うのだろうか。

シルクはそう疑問に思いながら珈琲を一口飲んだ。



―――

―――



パナシアンベリーという魔法植物が存在する。

見た目はブルーベリーのような小粒のもので、鮮やかな赤色の果物だ。


パナシアンベリーは栄養価が高く、治癒困難と言われている病に対しても治癒効果を現す、所謂万能薬として注目を置かれている。

そのような魔法植物は世になかなか出回らない為、もしその存在が露わになれば奪い合いが起きてもおかしくないだろう。


その為、魔法薬学会にてパナシアンベリーは保護対象として分類され、例え採取できたとしても報告が必須となる。

使用目的を問われ、許可を得なければ扱うことが出来ないような代物だ。



そもそも数年に一度に実るか実らないかという稀な魔法植物であり、実物をこの目で見たものはほんの一握りだと言われている。

最後に発見された報告でさえも数十年以上前のものであり、長い間発見されていないことが伺える。



―――

―――



「そのパナシアンベリーをどうしても必要としている御方から依頼を受けてしまったんだ。ここ最近になってから急かす様に連絡を受けていてな…グレイの研究が進んだことを聞いたときは本当にほっとしたよ」



受けてしまった、という言い方にシルクは眉をひそめる。

そもそも魔物討伐特攻隊である人に対してそのような依頼を申し出るのはどういうことなのだろうか。




「君はお人好しなところがあるからねぇ、実際一番悲鳴を上げてるのはその依頼を受けた後輩君だろうけどさ」


「後輩…とは」


「あぁ、実際に依頼を引き受けたのは僕の大学の後輩なのさ。その後輩から相談を受けたんだが、色々あって僕もその依頼に関わるようになってしまったのさ」


「本当ご愁傷様って感じだよね…まぁ、一応僕のせいでもあるのかな?」




何故グレイまでもがそのように言うのか。

シルクは頭上に疑問符を浮かべながら、まずは依頼の経緯について話を聞くことになった。


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