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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第二章:難題な依頼
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58. 詮索

シルクがアパート周辺を掃除している最中、グレイは持参してきた資料をテーブルに広げてカネル達に説明をしていた。


グレイはピュアポトスによる新鮮な酸素の放出量と放出時間について研究しており、ようやくその目途が立ったのだ。

酸素の研究を行うことになった経緯は、目の前にいる友人カネルからの頼みからでもある。



「へぇ…電話でざっくりと説明を聞いてはいたけど、実際にデータを見るとより分かりやすいな。口頭だけの説明では難しいところもあったし…それにしても、数値が安定するまではだいぶ波があったんだな。この期間はどうしてこうなったんだ?」


「波がある期間は大掃除される前のデータなんだよ。安定して数値がとれるようになったのはこの日からだねぇ」


「あのグレイが大掃除を決行するとは、どういう心境の変化があったんだ」


「シルクのお陰なんだよ…あぁ、さっきの彼女の事ね」


「へぇ…」




カネルは資料をテーブルに置き、探りを入れるような笑みを浮かべる。




「彼女はどんな魔法使いなんだ?普段どういった仕事をしているとか、流石にグレイの事だから聞いているだろ」


「そうだねぇ…何でも屋として個人活動してるとしか聞いてないよ」


「…何でも屋?」




シルクから漂ってきた魔力の流れは、魔物討伐特攻隊の二人にとって注目せざるを得ない程のものであった。

魔物討伐特攻隊に所属する者は皆平均以上の魔力を保持しており、戦闘能力に長けている。

その者達が一瞬でも警戒するほどの魔力をシルクは秘めているのだ。


カネルの隣に座っているアベルは気になったのか、何でも屋という言葉に反応する。




「そういえば以前アベルが特例の仕事を受けた時に言ってたっけ、正体不明の何でも屋が気になるって」


「…んん?」



グレイは珈琲カップに口を付けようとするのを途中で止めて固まる。

そして思い出す…シルクが魔物討伐特攻隊について気にしていたことを。

無表情のままではあったが、少し悩んでいるような様子であったことを。



「彼女の具体的な仕事内容も聞いたりしてるか?」




カネルもグレイ程では無いが、気になる事は納得するまで聞き出そうとするところがある。

シルクについて気になっていることは目に見えて分かるグレイは心の中で悩みだした。

さて、何処まで話せばよいのかと。


シルクは戦闘経験に長けており、持ち前の魔力量は計り知れない。

難関と言われる魔物討伐を一人でこなすような存在だ。

シルク自身にとっては普通の事だと思っていることのほとんどは、周りにとっては有り得ないと思われやすい内容であり、そのせいで周りから距離を置かれるようになったことをグレイは知っている。



シルクのずれた感覚についてはグレイでさえも偶に頭を抱ることがあったのだが、それに加えて面白くて興味深いと思いながら接している。

その接し方がシルクにとっては安心できるのか、現状シルクはグレイから遠ざけようとする素振りは見せない。


しかし、シルクのことを説明しようにも、あまり深堀する内容まで話してしまえば信頼関係が破綻しかねない。

体質についても今の時点では具体的に話す訳にはいかない。

さぁどうしようか、とグレイは冷や汗を流す。




「僕が聞いてるのは、魔法の素材集めや魔物討伐に、潜入捜査をする時もあるってことくらいだよ」


「へぇ、魔物討伐もしていると…一人で?」


「うん、そうだね」




難易度までは知らないけど、とすっとぼけた様子で珈琲を飲む。

実際魔物討伐の中には並みの魔法使い一人でもこなせるものが存在する。

このまま納得してくれるかな、とグレイはカネルの様子を伺うが、予想外にもアベルから声をかけられる。




「…魔物討伐の際に、刀を扱ってるんでしょうか」


「刀ぁ?」



グレイはちびちびと珈琲を飲みながら眉をひそめる。

確かにシルクは様々な武器の扱いに慣れており、刀を扱うこともあるだろう。

何故刀限定で聞いてくるのだろうか、とグレイは疑問に思う。




「以前アベルが特例で受けた仕事内容が、とある魔物討伐の後処理でね。それでアベルは気になる事が色々あってな」



カネルも珈琲を飲みながらアベルの質問の意図について説明する。

そして、冷静な口振りで言葉を続けた。



「ブラックリザードマンが二十三体討伐されていたんだが、どれもが刀で倒されていて同じような切り口だったんだと」


「ぶっ」



グレイは珈琲を吹き出しそうになる。

ブラックリザードマンは凶暴性が高く、一体に対して数人で立ち向かってようやく討伐できる魔物だ。


シルクが入居してきて間もない頃、魔物討伐でブラックリザードマンの名前を挙げていたのを思い出す。

勿論シルク一人での討伐である。


いやいやまさか、偶然だろうと思いながらグレイは引き攣った笑みを浮かべた。




「ブラックリザードマンとはまた凶暴な魔物だね…」


「本来なら複数人で討伐するような魔物です。それなのにどのブラックリザードマンも刀で倒されているのはおかしいんじゃないかと…複数人で挑むなら、使用する武器は全員同じになる事はありませんので」


「なーるーほーど…?」


「それがどれも刀で同じような切り口で討伐されているとなれば…強引な推理になるが、一人による討伐ってことにならないか?」




実際に戦闘している場面を見たことは無いが、シルクなら有り得る。

グレイは心の中で断言してしまう。

だからと言って素直にそう言う訳にもいかず、グレイは唸りながら視線を逸らした。



そして、視線を逸らした先の広間の窓から、シルクの掃除をしている姿を目撃する。

カネルとアベルもその視線につられ、窓から見える景色に視線を留めた。




「この後彼女と話せる時間はあるか?」


「一応この後来てもらうつもりだけど…言っておくけど、今後の研究についてを説明するのが先だからね?今回の研究が一気に進んだのはシルクの助言やらがあっての事なんだし…」


「なるほどな、尚更興味が湧いて、き…」




カネルは言葉を詰まらせた。

隣でアベルも言葉を出せずに固まる。

そしてグレイまでもが一瞬固まってしまい、ゆっくりと左手をこめかみに当てて軽く項垂れる。



シルクが掃除で使用している藁の箒に乗り、そのまま空中に浮いたのだ。

本来箒で飛行するのであれば、魔力を込めやすい飛行専用の箒が必要となる。


それにも関わらず、目の前でシルクは飛行専用でない一般用の箒で見事に飛行しているのだ。





「……それじゃあまた」




ヒヨドリに向かって言葉を交わし、最後に手を振る様子まで目撃する。

明らかに言葉を交わしている様子に対してもカネル達は驚愕した。



異言語魔法は高難易度な魔法に分類され、相当長けた者でないと扱えない魔法なのである。



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