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欠落万能屋は記憶を探求する  作者: 多津身 光
第二章:難題な依頼
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53. 訪問

翌日、晴れ晴れとした天気で日差しが強い。

そんな中、カネルとアベルは馬車に揺られて目的の場所へと向かっていた。



「がっつり睡眠をとったのは何日ぶりかねぇ…まだ肩が若干凝ってるけど仕方が無いか」


「毎日お疲れ様です、最近雑務が多くないですか」


「魔物の異常発生が多くなってきてるから、その報告書が増えていくのは勿論のことだが…例の依頼の件も含めると、それ関連で調べる事も多くなっちゃったんだよなぁ」



カネルは魔物討伐特攻隊の隊長を務めており、アベルを含めた四人の部下と共に活動している。

討伐難易度の高い魔物の討伐を専門としてつくられた部隊で、魔法教会での依頼で手に負えなくなった魔物達の討伐を日々行っているのである。


現時点でも対象の討伐数は削減されているのだが、それでも多忙な日々を送っている。

つまりそれだけ魔物が増加傾向にあるのだ。




「アベルには討伐ばかり向かわせてしまって申し訳ないな。碌に休暇を取れていないだろう」


「俺は大丈夫ですよ…ところで、話が変わるんですけど」



アベルは同僚達の難しげな表情を思い浮かべながら、気になっていることを質問する。




「隊長の御友人って相当な変人なんですか」


「あぁ…アベルはまだ直接会ったことが無いもんな」



真剣な表情で質問してくるのに可笑しくなり、カネルは笑いを堪えるように片手で口元を軽く覆う。



アベルにとっては噂程度でしか情報が無いのだが、どれも話を聞いただけでは納得し難い事であった。

魔法薬学研究者であること、若くして博士課程を取得していること、そこまでは納得の範囲内ではある。

汚部屋製造機、常識外れ、漂う薬品臭、魔法植物溺愛者…同僚から溢れ出た言葉の数々に、アベルは首を傾げて疑問符を浮かべた。


本当にそのような者がいるのかと、疑わしい気持ちが膨れ上がっていた。

しかし同僚達の青ざめた表情を思い出して複雑な気持ちに襲われる。




「…俺は実際にこの目で見た物事しか信用しないので」


「はは、アベルらしい考えだな。尚更彼奴と直接会わせてやりたくなるよ。確かに彼奴は変人だ。そして同時に天才でもある…信用できる奴だよ」





暫く馬車に揺られ、人里離れた場所まで移動した所で馬車は動きを止める。

御者の男が停留所に到着したことを伝え、二人は馬車を降りた。


ここから更に歩いたところにあるのは、”ヴェール・フォレット”という名称のアパート。

二人は其処に向かうために歩を進めて行く。



目的地に近付くにつれ、カネルは眉をひそめて首を傾げていた。



「どうかしたんですか」


「いや…いつもなら独特な匂いがするんだが、アベルは何も匂わないか?」


「…いいえ、何も」




これまでなら独特な薬品の匂いが漂ってきていたはずが、何も匂わない。

辺りを見渡すと、色褪せて枯れかけていた草木は完全にとは言わないが、本来の姿を取り戻すかのように活き活きと色味を帯びている。



(電話で言っていたことは本当だったのか…?)




カネルは友人と通話している際に、久しぶりに大掃除をしたことを聞いていた。

整理整頓とは無縁と断言できるような友人がまさか、と当初は冗談を聞くかのように呆れていた。


しかし実際、薬品の匂いは漂ってこない。

匂いを遮断する為のガスマスクの持参は不要であったかと考えるも、アパートに入るまでは油断できないかと心の中で苦笑いする。



そのまま数分歩いて行くと、目的地であるアパートが見えてきた。

そして、玄関前で掃除をしている人物を見かける。




「おや…見かけない人だな」




もしや新しい入居者だろうか。

これまで何度も入居希望者に逃げられたことを聞いていた為、カネルは軽く驚きの表情を浮かべる。


そのまま近付いていくと、掃除をしていた人物が振り返る。

比較的長身の女性で、掃除用の藁の箒を握ったまま固まっていた。


無表情ではあるが、驚いたのか一瞬目を見開いた直後に会釈をする。




「…博士の御友人様でしょうか」



箒を持った女性、シルクは軽く首を傾げながら訪ねる。

カネルは博士と言う言葉を聞き、思わず笑いそうになるのを堪えた。


カネルとアベルはそのままシルクに案内され、アパート内へと足を踏み入れる。

広間に案内されると、シルクは「少々お待ちください」と言葉を残してその場を去ってしまった。




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