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51. 次のステップへ

「先生、またそんなに散らかして!ちゃんと片付けてくださいよ!」


「わかってるよ~、でももう少し待ってて…この調べものが終わったら一旦片付けるから」


「それ何回目のセリフですか、聞き飽きてますよ!」




研究室にて、グレイは作業机の辺りを散らかした状態のまま書類と睨めっこしている。

グレイに持ってくるよう頼まれた資料をミュスカが持参したところ、折角整えられていた作業机が散らかっていることに呆れを見せていた。


そこに続いてシャロンも研究室に入り、やはり溜息をつきながら散らかり具合に呆れた表情をする。




「シルクが帰ってきた時もこの状態のままだったら、また睨まれるぞ」


「安心してくれ、帰ってくるまでには絶対片付けるから。あ、その本はこっちに置いといてくれ」




シルクが仕事へと向かってから2日経過していた。

どうやら潜入捜査は難航しているらしく、仕事へ向かって行った初日にグレイはシルクからしばらくかかりそうである旨の連絡を受け取った。

勿論その連絡を受けた後のグレイは不貞腐れるも、しばらく晴れない日が続くこともあって結局は研究を進められずに日々を過ごすことになる為、仕方が無いと割り切って細かい作業を続けていた。




「それにしてもまた凄い数の資料や参考書ですけど、内容的に次の段階に進もうとしてます?」


「ご名答、流石にそろそろ次の段階に行っても大丈夫かなって思っててね。ヘリオスフラワーさえ開花してしまえば、天候に左右されず室内で研究を進めることが出来る。いつもなら一直線の太陽光のみだったけど、四方八方からの太陽光を浴びさせれば、より多くの酸素を放出してくれるかもね…楽しみだなぁ」


「四方八方とはまた凄い光景になりそうだよな…遮光眼鏡必須だろ」


「遮光カーテンも準備しておく必要がありますね、あとヘリオスフラワー自体に被せる用の遮光生地も…何処に仕舞ってましたっけ」




その後、グレイのスマートフォンが振動する。

白衣のポケットから取り出して画面を確認すると、新規メールが1件。シルクからであった。


シャロンとミュスカもグレイの横から覗き込み、メールの内容を確認する。




『明日には戻れそうです』




簡潔な一文を確認すると、グレイはぱぁと明るい笑顔になる。

不貞調査という怪しげな潜入捜査である為、それが無事終わるのだと思うとシャロンとミュスカは安堵した表情を浮かべていた。


グレイは直ぐに返信すると、ぐっと伸びをしてから息を吐く。

そのまま作業を再開し、シャロンとミュスカもそれぞれの用事の為に研究室を後にした。



そうして数時間経ち、グレイは読み終わった資料を作業机に置いて研究室を後にする。

そのまま自室に戻ると、ふとテーブルの隅に置いてある花瓶に視線を留めた。


花屋にてシルクがグレイにへと選んでくれた青いスターチス。

シャロンとミュスカも同様に選んでもらった花は、それぞれの自室に飾られている。



グレイはシルクへ花束を贈った時の光景を思い出す。

普段の無表情とは違い、感情を露わにしたシルクの表情がとても印象に残っている。


それに続いて、体質について聞かされた時の暗い表情も思い出す。



グレイは椅子に腰かけ、スマートフォンを操作しそのまま耳元に当てた。

数回のコールの後、スマートフォンから声が響く。



『やぁグレイ、急に電話なんて珍しいな』


「やっほー。そっちの様子を確認したかったのと、今進めている研究の進捗状況についての報告をしようと思ってね。電話の方が早いだろ」


『あぁ、パナシアンベリーの為に進めている研究だろ、本当恩に着るよ。今のところはこっちは変わらずだな』


「急かされていないようで安心したよ。こっちはようやく第一段階が一気に進みそうな状態さ」



グレイは現在の研究の進行状況を電話の相手に説明していく。

一通りの説明が終わった後に間を置き、椅子に深くもたれた。




「…それと最後に、1つ頼みがあるんだけど―――」





―――

―――



とある建物の室内にて、シルクは調査で得られた情報をまとめていた。


複数の写真には男性と女性が映されており、2人の距離が近いものばかりである。

中には男性が別の男性に何か書類を渡しているような光景、その手元がより近く映し出された光景など、細かい内容の写真も紛れ込んでいる。


メインの不貞調査だけでなく、別の要件についての情報までも入手し、それらをまとめ終えると大きめの封筒の中に仕舞い込む。

あとはこの封筒をティピックに提出すれば、潜入捜査は完了である。



「…お疲れ様、ありがとう」




シルクは壁に向かって声をかける。

壁には一匹の小さな蜘蛛がはっており、そのまま蜘蛛は何処かへと姿を消してしまった。

蜘蛛に使役魔法をかけ、潜入捜査の手助けをさせていたのである。



その後、廊下からばたばたと誰かが走ってくるような音が近付いて来る。

複数の足音であるが、シルクは焦らずに窓の前で立ち止まり、そのまま静かに窓を開けた。


窓から風がふわりと入り込み、ローブが風に合わせて後ろへと靡く。

シルクは窓に身を乗り出し、軽く下を見下ろすと、そのまま落下するように落ちて行った。



その直後に部屋の扉が勢いよく開く。

数名の男達が息を切らせて部屋へと入る。その中には調査対象であった者も紛れ込んでいた。

男は焦りと怒りの感情を入り混ぜたような表情で歯を食いしばっている。


窓が開いていることに気付いて直ぐ下を覗き込むも、何処にも人影は無い。

シルクは既に離れた場所まで箒で移動してしまっていた。





「…少し時間がかかっちゃったな」




ぽつりとそう呟きながら、静かに早く飛んでいく。

そして脳裏にグレイ達の姿を思い浮かばせる。


これまでは1人でいることが当たり前となっていた。

しかし今は、帰りたいと思える居場所がある。



シルクは薄っすらと笑みを浮かべ、静かに風を切る様に夜空の中を移動していった。

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