34. 提案
「椅子で十分です」
「駄目だよ、これは確定事項だからね」
「何度言っても僕達だって曲げませんよ」
「う……」
シルクは申し訳なさそうな表情で視線を斜め下に向ける。
時は数十分程遡る。
夕食の時間となり、四人分を揃えたところでシャロンが部屋で休んでいるであろうシルクを呼びに向かった。
しかし実際にシルクは休むどころか、薬研で薬草をすり潰して作業を進めていた。
テーブルの上には数種類のすり潰された薬草が並べられており、もしグレイが訪ねに入っていれば暫くシルクを巻き込んで部屋に籠っていただろう。
呆れた表情でシャロンは休んでいなかったのかと尋ねるも、「何かしていないと落ち着かなくて」と返答される。
普段から仕事詰めの生活を過ごし、それに慣れてしまっているシルクには寧ろ休むということ自体が難しいものであった。
新たに魔法薬らしきものを製造していたことを話せばグレイが煩くなると思い、シャロンは敢えて詳しい内容を言わずにシルクを食卓に案内し、無事夕食は始まる。
シルクは昼に残したのを温め直した食事を無事完食し、ミュスカは安堵の息を漏らす。
そうして全員食事を終えたところで、グレイがシルクに一つ提案した。
「明日は街に行くよ、そして君の寝具を調達しよう」
そう聞いた瞬間、シルクはきょとんとした様子で首を傾げる。
「あの…私には本当に必要ありませんよ?」
純粋に思った事を口にしたのだが、グレイ達は拒否権を与えないと言わんばかりに説得しだす。
そうしてシルクは最終的に、申し訳なさそうに視線を逸らしたのであった。
「もしかして金銭面が心配か?何なら先生が出すから安心しろ」
「勝手に僕の財布の紐を緩めないでくれるかな?」
「いいえ、自分で払えますので大丈夫です。…あの、どうしてそこまで…?」
シルクは純粋な疑問としてグレイ達に問いかける。
自分に対して何故そこまでするのか。下心をまったく感じられない為、尚更シルクにとって疑問であった。
そこでグレイは伊達眼鏡をかちゃりと上げ直し、ドヤ顔を決めるような表情で答える。
「ふふん、シルクは僕に対して真剣に向き合ってくれた存在の一人だ。そう簡単に蔑ろにする訳が無いよ。それに此処の管理人としても、しっかり住居者の環境を整えないとだしね!」
「後半のセリフ、以前の先生に聞かせてやりたいですね」
ミュスカは呆れ顔で溜息をつく。
偶然かグレイの上げ直した伊達眼鏡がかくんと斜めにずれるが、改めてくいっと上げ直された。
「まぁそんな訳だ、明日の予定は空けておいてくれよ」
「…分かりました」
丁度追加の仕事の予定を入れる前であったのと、グレイ達の好意を無下にしたくないことから、シルクは縦に頷いた。
そこで、ふとシルクは疑問を浮かべる。
「ところで、御二人は学生ですよね。学校は大丈夫なんでしょうか?」
「あぁ、長期研修の後は一週間休みになるんです。だから問題ありませんよ」
「中には学校に行って自習する奴もいるけど、俺達は優秀なもんでね。それに先生を放っておいたら何をしだすか分からねぇ」
「同感ですね」
自らを優秀だと自信あり気に宣言するシャロン達だが、グレイが冷やかさないところから事実なのだろうとシルクは考える。
同時に二人がいない期間、とんでもない環境が加速していたのを振り返っては納得した。
そしてわざわざ学校を休んでまで付き添う訳では無いことに安堵する。
「あ、そうそう。仮面は絶対につけちゃ駄目だからね」
グレイが笑顔でそう宣言する。
シルクは無表情には変わりないが、安堵していた様子からすんっと真顔になる様な雰囲気に切り替わる。
「すみません、やっぱり行けません」
「そうまでして素顔を表に出したくないんですか!?」
「寧ろ仮面を付けてたら逆に目立つだろ…仕事に向かう時も実は視線を浴びてるんじゃねぇか?」
「移動の際は存在感を消してるので大丈夫です。念には念を重ねて動いていますのでご安心ください」
「存在感を消すってどういうことだい?」
まさかと思いながらグレイは前のめりになって質問する。そしてある意味予想通りの返答が返ってきた。
「存在感を消す魔法薬を作って持参してるんです。これで誰にも認知されずに行動できます」
「気になるから材料を教えてくれないかい」
「待てやグレイ」
先程部屋で製作していた中にそれも含まれていたのだろうかと思い出しつつ、シャロンは目を輝かせたグレイの肩に手を置いて制止させる。
そこでミュスカはちょっと待ってください、と手を挙げて問いかけた。
「もしかしてですけどシルクさん、僕達と街に行くのにその魔法薬を使おうとは考えてませんよね?」
「……駄目でしょうか」
「駄目に決まってんだろ!」
「しっかり皆さんについて行きますから」
「シルクが主体の買い物なのに、その本人が消えてしまったら意味が無いだろう」
流石にグレイも呆れ顔を見せ、シルクの過度な慎重さに溜息をついた。
以前被害にあったというストーカーの件が関係しているのか、これまでの人間関係のトラウマによるものなのかと考えるも、今具体的に聞くのは逆効果だろうと脳内で結論付けて聞かないことにした。




