表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/51

34. 提案

「椅子で十分です」


「駄目だよ、これは確定事項だからね」


「何度言っても僕達だって曲げませんよ」


「う……」



シルクは申し訳なさそうな表情で視線を斜め下に向ける。



時は数十分程遡る。


夕食の時間となり、4人分を揃えたところでシャロンが部屋で休んでいるであろうシルクを呼びに向かった。

しかし実際にシルクは休むどころか薬研で薬草をすり潰して作業を進めていた。テーブルの上にはいくつかのすり潰された薬草が並べられており、もしグレイが訪ねに入っていれば暫くシルクを巻き込んで部屋に籠っていただろう。


呆れた表情でシャロンは休んでいなかったのかと尋ねるも、「何かしていないと落ち着かなくて」との事であった。


普段から仕事詰めの生活を過ごし、そのまま慣れてしまっていたシルクには寧ろ休むという事が難しく感じてしまっていた。



新たに薬液を製造していた事を話せばグレイがうるさくなると思い、シャロンは敢えて詳しい事を言わずにシルクを食卓に案内し、無事夕食は始まる。


シルクは昼に残したのを温め直した食事を無事完食し、ミュスかは安堵の息を漏らす。そうして4人全員が食事を終えたところでグレイがシルクに1つ提案した。



「明日は街に行くよ、そして君の寝具を調達しよう」



そう聞いた瞬間、シルクはきょとんとした表情を浮かべ首を傾げる。そうして出てきた一言が…



「あの…私には本当に必要ありませんよ?」



純粋に思ったことを口にしたのだが、3人は拒否権を与えないと言わんばかりに説得しだす。

そうしてシルクは最終的に申し訳なさそうに視線を逸らしたのであった。




「もしかして金銭面が心配か?何なら先生が出すから安心しろ」


「勝手に僕の財布の紐を緩めないでくれるかな?」


「いえ…自分で払えますので、大丈夫です。…あの、どうしてそこまで…?」




シルクは純粋な疑問として3人に問いかける。

自分に対して何故そこまでするのか。下心を全く感じられないため尚更シルクにとって疑問であった。


そこでグレイは伊達眼鏡をかちゃりと上げ直し、ドヤ顔を決めるような表情で答えた。



「ふふん、シルクは僕に対して真剣に向き合ってくれた存在の1人だ。そう簡単に蔑ろにする訳が無いよ。それに此処の管理人としてもしっかり住居者の環境を整えないとだしね!」


「後半のセリフ、以前の先生に聞かせてやりたいですね」



ミュスカは呆れ顔で溜息をつく。偶然かグレイの上げ直した伊達眼鏡がかくんと斜めにズレるが、改めてくいっと上げ直す。



「まぁそんな訳だ、明日の予定は空けておいてくれよ」


「…分かりました」




丁度追加の仕事の予定を入れる前であったのと、3人の好意を無下にしたくないことから、シルクはこくりと頷くことにした。


そこで、ふとシルクは1つ疑問を浮かべる。




「ところで、御2人は学生ですよね。学校は大丈夫なんでしょうか…?」


「あぁ、長期研修の後は1週間程休みになるんです。だから問題ありませんよ」


「好き好んで学校に行って自習する奴もいるけど、生憎俺達は優秀なもんでね。それに先生を放っておいたら何をしだすか分からねぇ」


「同感ですね」



自らを優秀だと自信あり気に宣言するシャロン達だが、グレイが冷やかさないところから事実なのだろうとシルクは考える。同時に2人がいない期間にとんでもない環境になっていた事を振り返っては納得する。


そしてわざわざ学校を休んでまで付き添う訳では無いことに安堵した。





「あ、そうそう。仮面は絶対に付けちゃ駄目だからね」



グレイが笑顔でそう宣言する。シルクは安堵していた表情からすんっと真顔に切り替わった。




「すみません、やっぱり行けません」


「そうまでして素顔を表に出したくないんですか!?」


「寧ろ仮面を付けてたら逆に目立つだろ…仕事に向かう時も実は視線を浴びてるんじゃねぇか?」


「移動の際は存在感を消してるので大丈夫です、今は念には念を重ねて動いていますのでご安心下さい」


「存在感を消すってどういうことだい…?」



まさかと思いながらグレイは前のめりになって質問する。そしてある意味予想内の返答が返ってきた。




「存在感を消せる薬液を作って持参してるんです。これで誰1人にも認知されずに行動できます」


「気になるから材料を教えてくれないかい」


「待てやグレイ」



先程部屋で製作していた中にそれも含まれていたのだろうかと思い出しつつ、シャロンは目を輝かせたグレイの肩に手を置いて制止させる。


そこでミュスカはちょっと待ってください、と手を挙げて問いかけた。




「もしかしてですけどシルクさん、僕達と街に行くのにその薬液を使おうとは考えてませんよね?」


「……駄目でしょうか」


「駄目に決まってんだろ!」


「しっかり皆さんについて行きますから…」


「一応シルクがメインの買い物なのに、その本人が消えてしまったら意味が無いだろう…」




流石にグレイも呆れ顔を見せ、シルクの過度な慎重さに溜息をついた。


以前被害にあったというストーカーの件が関係しているのか、これまでの人間関係のトラウマによるものなのかと考えるも、今具体的に聞くのは逆効果だろうと脳内で結論付けて聞かないことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ