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死神にプロポーズ

掲載日:2025/09/18

学校帰り、誰かにつけられている。

そんな気がして振り向くと、背の高い、若い男が真琴の後ろにいた。


 「私に何か用ですか?」

勇気を出して聞いた。

男は「君は私のことが見えるのですか?」

「君は元気そうだけど、大丈夫ですか?」

真琴は笑った。

「何?新しいナンパ?」「そんなことしなくても大丈夫。お兄さんなら彼女できるよ、じゃあね」

真琴はそのまま帰っていった。


 男は少し立ち止まり、すぐに天界へ帰った。

この男、名前は「テラ」天界の使いだ。

テラは、天界の奥の部屋の、鍵のかかった、分厚い扉を開けた。

そこには、人が一生を終える没年月日と、その者の名前を記した「天国への名簿」がある。


 テラの仕事は、死が近づいた人に寄り添い、天国に案内をする。

いわば死神だ。

死神といえば、怖く聞こえるかもしれないが、そうではない。

人が、この世に残した時間に寄り添い、迷わないように案内をする。

怒ることも、泣くことも、笑うこともない。静かに微笑むだけ。常に心乱してはいけない。

旅立つ者が怖がらず、安心できるように寄り添う。

それが、死神の使命だ。


 真琴の担当になったのが、テラだった。

テラは真琴が元気そうに見えた。そして真琴本人も自覚はない。

だが、真琴には、テラのことが見える。

「間違い?そんなことあるのか?」

テラは名簿を見た。

やはり、間違いではなかった。そこに真琴の名前はあった。

やはり、真琴の死は近づいていた。


 なぜなんだ?テラは天界の王に相談をした。

「本人がまだ気づいて無いのじゃよ。早く気づかせなくては、死期が早まる…」

王は残念そうに言った。


 テラは急いで真琴の元に戻った。

学校帰りの真琴に、静かに怖がらせないように優しく話した。

真琴は全く信じなかった。

真琴は口調を強めて、「これ以上付きまとったらストーカーだからね。警察を呼ぶからね」

テラは優しく「はい、誰に言ってもいいですよ。でも、私のことが見えるのは君だけですよ」と言った。

テラは真琴の案内人なので、たとえ他に死が

近づいている人がいたとしても、テラが見えるのは真琴だけだった。


真琴は立ち止まり、急に大きな声で、「どなたかすみません。この人が、ずーっとつけてくるんです」

でも、周りの人は不思議そうな顔で真琴を見て通り過ぎるだけだった。

一人のおばあさんが、真琴の傍にきて、「つけられてたの?怖かったわね、もう大丈夫よ誰もいないわ」

おばあさんの前には、テラがいた。

真琴は、ショックだった。何も聞こえなくなった。何も見えなかった。

家まで帰った記憶がなかった。


 家には、真琴一人。

真琴は部屋に入ると、テラにクッションをぶつけた。枕もぬいぐるみも、手当たり次第ぶつけた。

そして声をあげて泣いた。

「どうして?どうしてよ…」

「私、今とても元気だよ…全然疲れていないし、今からフルマラソンだって走れる…」

テラは、黙って真琴の傍にいた。

真琴も黙ってしまった。

まだ、信じたわけではない。

身体中が、空っぽになったようだった。


 「真琴、帰っているの?」母親の呼ぶ声がした。

テラは「お母さんに話してください。私も傍にいますから、少しでも早く病院に行くのですよ」

真琴は「もう遅いよ。私、あなたが見える…」

「病院へ、行ってからですよ」

テラは、真琴の肩にそっと手をおいた。


 真琴がリビングに行くと、母親はすぐに真琴の異変に気がついた。「真琴、どうしたの?何があったの?」

真琴はふるえながら話した。話は途切れ途切れになり、途中で泣き出した。

母親は、突然のことにパニックだった。だが真琴に悟られないように「真琴にはその人が見えるのね。そして、その人が早く病院に行くように言っているのね。真琴、明日病院に行こう。お母さんも信じて無いけど、健康診断だと思えば、ねっ…」


 次の日、真琴は母親に付き添われて病院へ行った。

テラは検査のときも、医者の説明のときも、どんなときも真琴の傍を離れなかった。

結果はテラの言う通りだった。


 病院の帰り、タクシーの窓から見える景色は、真琴の目には何も映らなかった。

部屋に戻ると真琴は「ありがとう。あなたの言う通りだった」そう言ってうつむいた。

テラが「私のことは『テラ』でいいですよ。『元気を出して』と、言われても無理だと思います。ですが、これからです。今から治療が始まるのですよ」

「えっ、でもテラは私を迎えにきたんでしょ?だったら決まってるよね」

真琴の、ちょっとだけ元気な声にテラは嬉しかった。

「わからないですよ。私もたくさんの方をお迎えに行きましたが、ストーカー扱いされて、警察を呼ぶ!なんて言われたのは、初めてです」

テラは微笑んで言った。

真琴が申しわけなさそうな顔をして少し笑った。


 その後、真琴の治療が始まった。

学校に行くのは、しばらくは無理と医者からも、両親からも言われた。

真琴が、両親に「今テストだから、一日だけでいいから学校に行かせて。友達に会いたい。そしてテストも頑張る。一日だけでいいから」医者も、両親も絶対無理をしない条件で許した。

真琴はテラに「私、明日一日だけ学校に行くの」

テラは「お供しますよ」と微笑んだ。

真琴は「テラ、解らないところは教えてくれる?最後のテストだもん、いい点取りたいから」

「何を弱気なことを言っているのですか、私が傍にいます」

テラの言葉に真琴は、「そうだよね、テラは神様だよね」と、笑って見せた。

自分の命の期日を知りながらも、今を笑って見せる真琴に、テラは言葉なく微笑むだけだった。


 テスト当日、テラは教室の中をうろうろしていた。

真琴が「わからない」と書くと、テラは他の生徒の答えを見てきて教えた。


 家に帰ると、部屋で二人で笑った。

「こんなに堂々とカンニングするなんて、ドキドキしたけど、楽しかった」

そして真琴は、ふざけたように、でも真剣に「テラ、私が死んだら、私と結婚してくれる?私、テラと一緒だったら怖くない」

テラは真剣に「いけません。冗談でも言ってはいけません。生きることを考えてください」

テラはこのとき自分の使命を忘れていた。

真琴の病気を治してやりたい。

そう願うようになっていた。


 手術の日、真琴はテラに「テラ、怖いよ、テラ傍にいてくれる?」

テラは大きく頷いて、「大丈夫ですよ。ずっと傍にいますよ」

テラはずっと傍にいた。

真琴が目を覚ましたとき、寂しく無いように、ずっと傍にいた。

手術は無事終わり、目を覚ました真琴を見て、ほっとしたテラだった。

だが、真琴の命の時間は、ほんの少し伸びただけだった。


 このとき、テラは決めていた。

すぐに天界に戻った。

そして、真琴の命を助けてやって欲しいと王に頭を下げた。

王は言った、「テラ、お前は自分の言っていることがわかっているのか?」

「はい、わかっています。どんなに無理を言っているのか。でも、王なら何かご存知ではないかと、お願いしています」

王は静かに、テラに話し始めた「テラよ、お前はあの娘をそれほどまでに…」

テラは黙ったままで、頭を下げたままだった。

「一つだけ方法はある」

王の言葉に、テラは「それは何でしょう?教えてください」


 「テラよ、お前は風の使いじゃった。死神はお前のように、風の使い、雲の使い、雨の使い、大勢の者の中から、選ばれし者が死神になれる。死神となって、人に寄り添えるのは、ほんのひと握りじゃ。覚えておるか?」

「はい…」テラは小さく答えた。

テラもわかっていた。

死神がどれほど名誉なことか。

テラも死神になるまで、いくつもの試練を乗り越え、最後に最大の死神試験を受け、やっと死神になれたのだ。

死神にどれほど憧れて、どれほど苦労してなれたか、テラ自身わかっている。

だが、テラには迷いはなかった。


 最後に王は言った、「テラよ、使命を果たせなかった者は、二度とその姿には戻れぬ」

テラは、王に深々とお辞儀をし、真琴のもとへ行った。


 真琴は不安そうな顔で、今にも泣き出しそうに「テラ、どこに行ってたの?ずっと私の傍にいてくれるって、言ったのに…」

テラは、静かに「やはり、私が見えるのですね…」

真琴は、真剣に、真っ直ぐテラの目を見て言った。

「テラ、テラが傍にいてくれるなら、私、テラと一緒に行く」

テラは真琴の言葉に、胸が締め付けられるようだった。

今、自分が真琴にできることは…。


 「真琴さん、私は人間ではありません。今は仮の姿です」

真琴は「いいよ。テラが何者でも関係ないよ、テラがいい」「それと、私のことは真琴でいいよ」

…「真琴、私の元の姿は風の使いです。私たち死神は、風の使い、雲の使い、雨の使いなど、もとの姿はそれぞれです。

その中から、選ばれた者が死神になれます。

だが、使命を果たせなかった者は、その姿はなくなり、二度と元には戻れません」

言い終えたテラの顔に、後悔はなかった。


そして、真琴に言った。

「真琴、生きるのですよ」

真琴は涙が流れ落ちた。「テラ…私テラと一緒に行く、テラ…」

「真琴、私はもとの風の使いに戻るだけです。

それに、数多い死神の中でも、プロポーズを受けた死神は私だけです。風の使いに戻っても、私の自慢です」そう言ってテラは微笑んだ。

「テラ…」真琴は涙が止まらなかった。

テラは真琴のベッドの傍に行き「真琴、私は風の使いに戻って、真琴に会いにきます」そう言って、テラは真琴の頬に優しく触れて帰って行った。


一ヶ月後、真琴は担当医が驚くほどの回復力で退院の日を迎えた。

退院の日、真琴は病院の玄関で一人、母親の車を待っていた。

そのとき、急に風が吹いて真琴を包み込んだ。風は真琴の頬を優しく撫でて通り抜けた。

風が「真琴」と呼んだのが聞こえた。

「テラ、テラだよね」

「テラ、ありがとう」

真琴は風にテラを感じた。



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