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第六章:仮面の契約、血と朱の詔

朝の宮中――白砂の庭に、靴音が静かに響く。


安倍晴義は、召喚を受けて内裏だいりへと足を運んでいた。

京を覆う疫の波、その第一波がようやく鎮まり、

晴義のもとには次々と朝廷からの報告が集まり始めていた。


「斬魔師の力を評価する」

……そう記された勅文の裏に、何か別の意図があることは、すでに彼も察していた。



◆ 宮廷会議:政の表と裏


内裏の正殿。

そこには、重職にある貴族や陰陽寮の高官たちが列を成していた。


その中に、目を引く男がいた。


藤原 景雅(ふじわら の かげまさ)

右大臣の孫にして、陰陽寮と医療寮を統括する若き貴族。

柔和な顔立ちの裏に、冷酷な策を秘めた男。


「斬魔師・安倍晴義殿、ご足労感謝いたす。都の疫を封じた功績、確かに拝見した」


「礼には及ばぬ。それが職務ゆえ」


「……だが、この場にて一つ、問わせていただきたい。

 “その力”、本当に“人のため”に使われているのか?」


その一言に、場が張り詰める。


「疫と斬魔――その力は紙一重。

 人が悪魔と戦えるほどの力を持てば、やがて人が“悪魔そのもの”と化すやもしれぬ。

 ……まして、医が“斬る”などという行為に踏み込むならば」


「つまり、斬魔師制度を――廃すると?」


「我らは、正しき薬と祈祷で病を祓えばよい。

 “刃”など不要なはずだ。古き制度に、今こそ終止符を」


ざわつく貴族たち。


だが晴義は、その目を見逃さなかった。


景雅の袖の奥に、一瞬だけ見えたもの――黒い仮面の模様。

そして、その傍に控える随臣の首筋に、うっすらと見える瘴気の痣。


(……まさか、宮廷内部まで……)


その夜、晴義は密かに動いた。



◆ 夜の勅封院 ― 密約の痕


晴義は情報網を駆使し、景雅の動向を探った。

そして、夜な夜な彼が訪れる一つの場所へとたどり着く。


――勅封院ちょくふういん

かつて王家の病人を秘密裏に封じた施設。

今は閉鎖されたはずのその地下で、奇妙な実験と取引が行われていた。


薄暗い廊下の奥、晴義は目撃する。


瘴気の小瓶を手にした景雅と、白い仮面をつけた人物の影――


「我らは、瘴気と共存すべきなのだよ。

 “恐れる”から病が生まれる。ならば、“制御”すれば、力となる」


「……それが、コーヴィ堂との契約か」


晴義の声に、影が振り向く。

仮面の男――**“ガンマ”**か、それとも別の瘴魔か。


景雅は笑う。


「民のためだよ、安倍殿。“適応”とは進化だ。

 貴様こそ、“病を斬る”などという古代の思想に囚われている」


「人のために病を利用しようとするなど――それこそ病そのものだ」


その言葉に、景雅は一歩前へ。


「ならば、いずれ宮廷もお前を敵とみなすだろう。

 “病を制する者”が、王の側に立つ時代が来るのだからな」


闇の奥から、もう一人の仮面が歩み出る。


「……次に現れる者は、“デルタ”だ。

 変わることを拒む者に、変異の刃を届けよう」


それだけを告げ、仮面の影たちは闇へと消える。



◆ 晴義の決意


その夜、晴義は雪麻呂の元を訪れた。

“核”を抱えながらも、自らを保とうとするその弟子に、静かに告げる。


「敵は、外にはいない。

 ……すでに、内側に入り込んでいる」


そして空を仰ぎ見る。

夏の終わり、遠雷が鳴る。


――それは、次なる災厄の足音。


「デルタが来る」


斬魔師として、医として、人として。

晴義はすべてを賭けて、それを迎え撃たねばならなかった。

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