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プロローグ:瘴気の都に斬る者あり
時は平安中期。
都は疫により沈黙し、人々は死を恐れて家に閉じこもった。
貴族は口を閉ざし、僧は祈り、陰陽師すら手をこまねく中、闇より来たるは黒き瘴気を纏う異形の者――その名も【SARS】。
それは獣のように跳ね、霧のように人へ侵入し、
一たび咳き込めば、肺は焼け、魂すらも蝕まれるという。
「これは呪いにあらず。病なる悪魔――疫魔だ。」
そう言い放ったのは、かつて禁裏御殿に仕えた若き医師、安倍晴義。
彼は僧でも陰陽師でもない。
されど、知と刃をもって病と戦う者。
手には経文ではなく**鋼のメス(刃)**を携え、
薬草を煎じ、血を抜き、肉を裂き、悪しきものを断つ。
この都に現れし見えぬ魔に立ち向かう者――
人々は彼をこう呼ぶようになった。
「斬魔師」――と。
疫病と化した悪魔「SARS」。
それを追い、斬るため、安倍晴義は静かに立ち上がる。
これは、疫魔を斬る医師の物語である。
そして、失われた命と魂を取り戻すための、
静かなる戦のはじまりである。