Chapter28:魔王軍が襲来
沈黙。
静寂。
星動が、自分が一体どのような立場の人間に、どんな言葉を発してしまったのかを自覚した時、彼はまるで時間が停止したかのように、表情は呆然とし、思考も停止した。
どれほどの時間が流れただろうか。おそらく楓奈の涙が枯れ果てた頃だろう。彼女はゆっくりと振り返り、再び星動に背を向けた。
その動きが、まるで静かな水面に石を投げ込んだように、星動の意識を現実へと引き戻した。
「楓奈!」
少女は手を振ると、魔法のブラックホールが現れ、彼女の身体を飲み込んだ。
星動は、彼女が消えた方向を長く見つめ、ゆっくりと両膝をついた。
「僕は……一体何をしてしまったんだ」
「きいっ」
背後で木の扉の音がした。改守と一葉が心配そうな顔で出てきた。
「星動君、どうだった?」
改守が辺りを見回す。
「楓奈は?」
星動はゆっくりと振り返り、自嘲気味に笑った。
その後、長い間、彼らは楓奈の姿を見ることはなかった。
星動は悪魔の部屋を訪れ、面と向かって詰め寄った。
「私は君の答えを肯定したことなど一度もないだろう?
明らかに君自身が主観的に決めつけたことなのに、なぜ私に責任を押し付けるんだ?」
黒マントは両手を広げて、まるで自分は無実であるかのような態度を見せた。
星動は彼を見たが、怒る気力さえ失せてしまった。彼はゆっくりとソファに腰を下ろした。
「あの取引の選択肢って、これのことか?」
「それはその一つに過ぎない」
「一つに過ぎない?」
「私はいつ、君とたった一つの『選択』だけを交換したと言った?」
星動が彼を睨みつける。
「お前は本当に悪魔だな」
「最初に会った時からそう言ってただろ?」
「つまり、これからの僕の全ての選択が、お前との取引で奪われるってのか?」
「そんな無茶はしないよ。はっきり教えてやろう。私は君の人生の選択肢を三つ取引した。まだ二つ残っている。どれかは、君自身が探り当てるんだな」
「僕……小さな取引を一つできないか?」
「よく言うよ?」
「楓奈の居場所を一度だけ探るだけだ。僕はもう…彼女を見つけられない。先生にもできなかった。もし代償が小さなもので済むなら…」
「それはダメだ」
「もっと要求するのか?」
「いやいや、前にも言った通りだ。私の取引は、取引品自体の価値とは無関係だ。
欲しいもののためにだけ取引する。
たとえ私が欲しいものが小さな石ころ一つでも、売り手が望めば、無限の宇宙と交換することだってある。
私は楓奈に、この世界で古今東西、唯一無二の魔眼を与えた。その代わりに求めたのは、彼女が自ら創った小さな呪文一つだけだ。これが私の性分だ。
そして君には、もう私が欲しいものは何もない。
だからたとえ君が、今ここで私に唾を吐きかけてもらうために、自分の全てを差し出そうとも、私はいらない」
「……わかった」
星動は立ち上がった。
「もう来ない」
「来られなくなるだろう。この部屋は、もう君たちには開放されないからな」
「お前は……一体誰なんだ?」
「とても知りたいか? ヒントをやろう。私は君が会ったことのある人間だ」
「雨神か?」
「違う」
「彼女を知っているのか?」
「知ってようが知ってまいが、君の知ったことか」
「楓奈にいじめられた奴か?」
「素晴らしい推測だ。残念ながら違う」
「お前は……」
「うんざりだ。出て行け」
星動は周囲がぐるぐると回る感覚を覚えただけだった。視界がはっきりした時、彼は洞窟の最深部の壁の前に静かに立っていた。
そして目の前の壁には、あの扉は、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。
三ヶ月後、
「魔王軍?」
星動はエプロンを締め、雑巾で食卓を拭きながら、改守の言葉を聞いて顔を上げた。
「ここから三千キロ離れた山脈に突然現れて、楓動町とほぼ同じ大きさの村を一つ滅ぼした」
改守は上着を羽織り、弓を手に取った。
「落葉大町から援軍が派遣され、すでに道中だ。狩猟隊は夜通しの緊急招集をかけ、共に迎え撃つよう要求している」
「僕も行く」
「ダメだ、危険すぎる」
「改守さん、僕はもう三つの職業を修得している。あなたとそう遜色はない」
「それでもダメだ」
一葉が椅子から立ち上がった。
「星動君。私も行くのは反対よ。
楓奈が行方不明になってから、あなたは毎日のように私たちのところに来てくれている。
私たちもあなたが小さい頃から見てきた。とっくに自分の息子のように思っている。危険を冒すのは認められない」
「一葉さん…」
星動の眼差しに向き合い、一葉も黙って拳を握りしめ、動かずにいた。譲る気配はなかった。
「俺は行かせてやるのがいいと思うぞ」
大柄な男が大きな鉄のハンマーを担いでドアをまたいだ。
「俺もお前と一緒に行く」
「親父」
来た者は星動の父親、熱血長遠だった。
「長遠兄」
改守の不満そうな顔に、長遠は手を振った。
「お前たちがこのガキを心配しているのはわかる。俺だって心配だ。
だが、奴は魔力士だ。冒険者になろうという者だ。
そんな奴がビクビクしていられるか?
ちょうど魔王が現れたこの時節じゃ、奴の成長を阻むことこそ、僕にとっての罪だ」
「一葉さん、ほら、親父がそう言ってるだろ」
一葉はため息をつき、台所に入り、三つの水筒を持ってきた。紐で結わえられ、揺れるとぶつかり合う音を立てる。
彼女は一人一人に、一つずつ手渡した。
「どうか安全に気をつけて。命が一番よ」
彼女は真剣に言い含めた。
「君は家で飯を作って、待っててくれ」
「心配するな一葉、旦那さんは僕が見ておく。手足がなくなるようなことはさせない」
「長遠さん、私の夫を呪わないでよ」
「そんなわけあるか、ハハッ!」
星動の父、長遠は不思議な魔力を持っていた。
彼が場を温め、一葉と改守の陰鬱な空気もかなり和らげ、二人は彼と話し始めた。
三人の明るい会話の中、星動はその水筒を手に取り、しばらくじっと見つめた。
「一葉さん、この水筒、楓奈の分もあるんだよね?」
一葉の目がわずかに曇り、うなずいた。
「ええ」
「それも、僕に預けてくれないか?」
「……わかった」
一葉は星動をしばらく見つめた後、振り返って台所からもう一つ水筒を持ってきた。
この水筒が違っていたのは、水筒の表面に紅葉が刺繍されていたことだ。
星動は二つの水筒を両方とも腰に結び付け、一葉に手を振った。
「行ってきます」
一葉はやつれた表情だったが、笑顔で手を振り返した。
「気をつけてね」
ドアを出た後、星動は二人に少し待つよう言い、ゆっくりとあの大きなカエデの木の下へ歩いていった。
手を上げて、その木の幹を撫でた。
「楓奈、君が去ってから、これで111回目の言葉だ。
前と同じように、君に届いているかはわからない。でも僕は信じたい。
君がずっと聞いてくれていて、僕たちを見守ってくれていると。
僕と改守さん、それに親父が、魔王軍を討伐に行く。
魔王軍の実力はすごいらしい。
楓動町と同じくらいの村を滅ぼせるなら、掌握している職業の数は千を超えているはずだ。
僕はまだ三百だ。今回は主力じゃない。お父さんも親父もそうだ。二人とも五百ちょっとだ。
主力は落葉の町から来る援軍だ。千以上の職業数を誇る強者たちばかりだ。
でも、もし君が来てくれれば、絶対に問題ないよな。
残念ながら君はいないけど…
でもいいんだ。この水筒、見えるか?一葉さんが君に作ったものだ。
実のところ、水魔法くらい誰だって使えるだろ?
剣術に特化した『絶対剣士』以外は、水筒なんて必要ない。
でも一葉さんの気持ちはわかる。これはつまり、認識票であり、お守りなんだ。身元を確認しやすくするためと、加護を祈るためのものなんだ。
僕は君の水筒を持って行く。
それはつまり、君も一緒に行くってことだ。
今回は多分、何も問題は起きないだろう。
主力は僕たちじゃない。レベル差もそれほどない。
相手は転送魔法でランダムに飛ばされた小部隊で、補給も援軍もない。すぐに殲滅できるはずだ。
でも、絶対とは言えないな? 時々、こういう直感があるんだ。今までは大丈夫だったことが、今回はダメなんじゃないかって。
もし、もしも、僕たちに何かあったら……君は助けに来てくれるよな?」
星動はしばらく待ったが、返事はなかった。
「よし、わかった。きっと来てくれるはずだ」
星動は楓奈の水筒を解き、地面に少し水を注いだ。そして振り返って去っていった。
改守が村の入り口で待っていた。
星動が来ると、彼は肩をポンと叩いた。
「彼女には届かないんだよ、星動君。そこまでしなくてもいいのに」
「構いません、改守さん」
改守は星動を見つめ、感慨深げに言った。
「うちの娘は、君にはまったく釣り合わないな」
「そんなことありません」
「おい、お前ら二人、グズグズ何やってんだ! さっさとついてこい!」
長遠の大きな声が遠くで響いた。星動は改守にうなずき、二人は急いで後を追った。
駆け出しながら、星動は振り返った。
地平線に消えかかっている大きなカエデの木を一目見て、木の下に赤い服の影が一瞬ちらりと動くのが見えた気がした。
目をこすり、よく見ようとしたが、もう消えていた。
彼は笑みを浮かべ、何も言わず、振り返って前へと駆け出した。




