Chapter14:悪魔の予言(七歳)
周囲は漆黒の闇、五本の指さえ見えない。
「坑道の奥深く、冷たい霧のように絡みつく湿気。
夜半、夜回りの老坑夫が、長く封鎖されていた第三坑道へと独りで足を運んだ。
入口に掛けられた木の札は、すでに歳月に蝕まれ、かすかに『立入禁止』の四文字を読み取れるだけだった。
坑道の奥から風が吹き抜け、鉄錆と腐敗が混ざった匂いを運んでくる。
突然——
『カン……カン……』
澄んだつるはしの音が闇の奥深くから響いてきた。老坑夫の胸が締めつけられた。
あの坑道は十年前に崩落し、七人の死者を出した。
それ以来、誰も足を踏み入れていない。
彼が油灯を掲げると、鈍い光が濡れた坑壁の上で揺らめいた。
その時、彼の背後に緑色の光源が浮かび上がった。」
ふっ!
闇の中に緑の炎がひと塊り立ち昇り、炎が青ざめた顔を照らし出した。
その顔は深刻な表情を浮かべ、口を開けたり閉じたりしている。
「老坑夫が振り返ると、それは鬼火で、鬼火が青ざめた顔を照らし出していた。その顔が言うには、
『帰りたい……』
ううう~あううう~」
青ざめた顔には、一対の赤い瞳があった。
闇の中で、まるで血の流れる傷口のように不気味だった。
その赤い瞳にじっと見つめられているのは、黒衣の少年。彼は振り返ってその青ざめた顔を一瞥した。
そして、中指をはじいた。
「いてっ!」
その青ざめた顔が、ぱっと振り返ると同時に、緑色の火の光も消えた。
「また後頭部はじくの!星動ひどーい!」
「だって本当に普通の光源が欲しかったんだよ」
「あたしの怪談に乗ってくれないくせに、後頭部はじくなんて、もう協力しないもん!」
「はいはい、悪かった。楓奈様、どうか洞窟を照らしていただけませんか」
「それでこそね」
闇の中に一筋の火の光が閃いた。
次の瞬間、暗闇に包まれた洞窟全体が、蜘蛛の巣のような赤い光の筋で覆われた。
赤い光の筋が明るく輝き、洞窟全体を白昼のように明るく照らし出した。
その光が、楓奈と星動という二人の小さな姿、そして楓奈の不満げな顔を浮かび上がらせた。
彼女はぶつぶつと呟いている。
「星動はちっともロマンチックじゃない」
「君のロマンチックの定義は怪談を語ることか?」
「せめて合わせてよ!」
「次に『タイタニック』の話をする時は合わせてやるよ」
「約束ね!」
楓奈は嬉しそうに星動のそばに跳び寄り、周囲の洞窟を観察した。
「初めての冒険者クエストなのに、こんな誰も引き受けないようなの選ぶんだから」
「修道女が僕たちに高い要求と期待をしてるってことだよ。
僕たち二歳で先生に就いて、今七歳で五年経った。
ハイスペックな先生のもと、元々高い素質を持ち、長い訓練を積んだんだ。
普通の人みたいにレベル1とか2のクエストばかり受けてるわけにはいかないだろう?」
「だからレベル5?これは三人以上の冒険者チームが必要なのに、僕たち二人だけで本当に大丈夫?」
「天才としての自信を持てよ?」
雑談をしながら、彼らはゆっくりと洞窟の奥へと進んでいった。
楓奈が放つ魔法の光の筋が、彼らの足取りに合わせて少しずつ前方へと伸びていく。
その途中、楓奈が一冊の本を開いた。
その本は開いた時点では真っ白だったが、開いてから1、2秒後、ページに文字が浮かび上がってきた:
レベル5 懸賞クエスト:鉱山調査
場所:重力石鉱山(落葉町の南方、町から約500光年)
クエスト詳細: 今年4月以降、鉱山で鉱夫の失踪が相次いでいる。調査員の探査によれば、鉱山内にレベル5以上の魔物が潜んでいる可能性がある。具体的な種類や実力は不明。冒険者は慎重に行動されたし。
レベル1冒険者クエスト:10職業掌握魔力士相当。レベル2冒険者クエスト:20職業掌握魔力士相当。掌握した職業は冒険者ギルドまたは魔力士協会の検定を受けたものでなければならず、独自に創作した職業が無条件にカウントされるわけではない。
これが冒険者レベルの基本体系を構成する。
「この説明、本当にお化けみたいだね、星動」
「このクエストも冒険者ギルドに長い間放置されてたんだ。落葉町にはレベル5の冒険者がいなくて、レベル5の冒険者がいる大きな街はここから遠くて来ないからね。だから僕たちが引き受けたんだ」
「でも、こんなに時間が経ってたら、魔物の実力は上がってないの?」
「普通は上がるだろうけど、こいつは違う。君が何を心配してるか分かるよ。冒険者ギルドの調査員は、長期未解決のクエストには定期的に調査員を派遣してチェックしてる。だから僕たちが手にした情報は基本的に最新のものだ。その点は安心して」
「それならよかった。実力が僕たちの範囲を超えたやつが出てきたら怖いから」
楓奈がそう言うと、星動が突然足を止めた。後ろからついてきた楓奈は避けきれず、彼の背中にぶつかった。
「あたしまだ七歳だから胸は発育してないよ。そんな手は通用しないわよ、星動君」
星動が振り返り、楓奈を白い目で一瞥すると、指で前方を指した。
楓奈がその指す方向を見ると、目を見開いた。
彼らは知らず知らずのうちに洞窟の奥底にたどり着いていた。
その突き当たりの岩壁に、なんと木の扉があった。
しかもその扉は普通の扉ではなく、周囲の環境とは明らかに調和しない、豪華な別荘の主寝室にあるようなタイプのものだった。
「地図にこの扉、載ってた?」
楓奈が再び本を開き、新しい真っ白なページをめくると、白紙に地図が浮かび上がった。地図が示すその場所には、何も記載されていなかった。
もしこの扉が存在するなら、必ず記載されているはずだ。
「調査員はこの扉の存在を知らなかったの?」
「調査員は魔法陣を使って洞窟の外から調査してたんだ。中には入っていない」
「じゃあこの扉は新しく現れたってこと?」
「楓奈、君、この扉自体が魔物かどうか調べられるか?」
「名案ね、星動。でもあたし調べたよ。これはごく普通の扉だって。星動の引力感知は?扉の向こうに何があるか感知できる?」
「できる。ただの小さな部屋で、他には何もない」
「じゃあ危険はないってこと?」
「僕の引力感知からすると、確かにない」
「だったらここで突っ立ってないで、入ろうよ」
「待って」
楓奈が大股で扉の前に歩み寄り、手を振った。
風の魔法が彼女の手から吹き出し、その神秘的な木の扉を押し開けた。
重厚な木の扉は音もなく滑り開き、まるで封印された秘密を露わにしたかのようだった。
扉の向こうに広がっていたのは、古の伝説からそのまま写し取られたような豪華な部屋だった。
まず目に入ったのは、壁に沿って立ち並ぶ深い色合いの木製書架の数々だ。
それらは彫刻が施された天井に届かんばかりの高さに聳え、分厚い典籍、黄ばんだ巻物、そして神秘的な文字で装丁された冊子でびっしりと埋め尽くされていた。
羊皮紙、インク、そして年月が積もった独特の香りが漂っている。
部屋の中央、複雑な暗い文様が織り込まれたテーブルクロスが掛けられた円卓の上に、透明な水晶玉が静かに置かれていた。
玉の内部にはまるで小さな星雲が閉じ込められているかのようで、言い表せない深い青の微光がゆっくりと流れ、言葉にならない未知を語りかけている。
長さの異なる白いろうそくが何本か、部屋のあちこちに点在していた――水晶玉のそば、書架の隅、暖炉の棚の上。
それらは燃え、揺らめくオレンジ色や青白い炎を灯し、壁や天井に落ち着きなく跳ね回る巨大で歪んだ影を投げかけていた。固まったろうそくの滴は、琥珀色の細流のようにうねり、燭台の台座の上に歳月の痕跡を積み重ねている。
足元は柔らかくて厚みのある深紅色の絨毯。その上に描かれた幾何学模様がろうそくの明かりにかすかに浮かび上がり、まるで何か秘密を隠しているようだった。
部屋の奥には、石積みの暖炉が勢いよく燃えていた。炉床の中では、金色と赤が混ざった炎が楽しげに踊り、パチパチとはぜている。
まるで魔法使いの部屋のようだった。
楓奈は半歩後ずさり、星動と目を合わせた。
「暖炉の火」
「誰かいるの?」
「僕、何かおかしい気がする、先に戻ろう」
「わかった、そうしよう」
星動はくるりと向きを変えて歩き出し、楓奈がその後をぴったりとついて行った。
しかしすぐに、星動がまた足を止めた。楓奈は避けきれず、再び彼の背中にぶつかった。
今度は彼女も冗談を言わず、星動の背中から頭をのぞかせて、前方に開いている木の扉を見た。
「道を間違えたの?」
「僕の引力感知が効かなくなった」
「冗談でしょ?」
「感知ではここが通路になってるはずなのに、見て」
「幻覚?」
「わからない、楓奈、転送魔法は使える?」
星動が振り返り、楓奈を見た。
しかし彼は固まった。
振り返った瞬間、周囲の空間がまるで一緒に回転したかのように、楓奈の方を向いた時には、周囲の景色がすっかり変わっていたのだ。
彼はソファに座っていた。
楓奈も同じだった。
そして周囲は、あの部屋の中の風景に変わっていた。
二人は部屋の中に座らされていたのだ!
「このような形でお招きして申し訳ないが、君たちの警戒心が高すぎる。
面倒を避けるため、直接少しばかりの手段を見せて、君たちの警戒心を解かざるを得なかった」
星動と楓奈はまだ互いを見つめ合い、それぞれ相手の目に見える驚きを読み取っていた。
その時、かすれた声が聞こえた。二人が声のした方を見ると、そこには黒いローブが一つ、宙に浮いていた。ローブの下には、何も存在しなかった。
明らかに、それが話していた。
星動は気を引き締めた。
「君は?」
「わしは悪魔だ。遠回しな言い方は好まぬ。率直に言おう、わしは取引が好きだ。君たちと取引がしたい」
「悪魔?取引?どんな取引だ?」
「どんな取引でも構わん。君が何を望むかによる?わしが何を与えるか、その内容は、君が持っているもの、わしが欲しいものだ」
「僕たちは君と取引しなければならないのか?」
「いやいや、取引は強制ではない。断ることもできる」
「強制じゃない?でも僕たちを転送して中に入れたのは?」
「君たちの警戒心が高すぎたからだ。
しかし君たちを諦めたくもなかった。
君たちにはわしが渇望するものがある。
だからこそ、少し手段を使って、もしわしが本当に強制したら君たちは全く抵抗できないということを示したかった。それによって、わしが本当に強制しないという態度を表したかったのだ」
星動は深く息を吸い込んだ。
「君の実力、もしかしてレベル6以上か?」
「わしに関する情報は、全て聞かなくていい。教えるつもりはない」
「君は魔王か?」
「言っただろう、聞かなくていい。どんな情報も教えない」
「教えてくれないのに、どうやって君が何を欲しがっているか分かれというのか?」
「ふふ、わしは言った。君たちが何を欲しがるかで取引するのだ。わしが君たちを探したわけではない。
だからこそ、わしが何を欲しがっているか、君たちには分からない」
「つまり、取引の代償も僕たちには分からない?」
「そうだ」
「不公平じゃないか?」
「ふふ、でも君たちは取引を断ることもできる。
ただ教えておこう、君たちが望むものは何でも、わしのところで取引すれば手に入る。そして取引の代償は、君たちが欲しいものによって変わることはない。
君たちが持っているものでわしが取引したいものがなくなったら、君たちはわしと取引できなくなる。
これで十分明確だろう?」
「君の言うのは、取引の両者の代償が釣り合わなくてもいいということか?」
「その通り。わしはわしが欲しいものだけを取る。それ以上のものは、何もいらない。ふふ」
星動は眉をひそめ、沈黙した。横で話を聞いていた楓奈は、星動を見た後、ようやく慎重に口を開いた。
「何でもできるの?地球に戻ることも?」
「楓奈」
星動が楓奈の言葉を慌てて遮り、首を振った。
「僕たちが幻覚か呪いにかかってるかどうかもまだ分からないんだ。言葉には気をつけろ」
「まだわしを信じないか、まあいい。
ともかく今日はこのことを伝えるためだけに来た。わしの存在を知った以上、ゆっくりと君たちが取引に来るのを待つことができる」
悪魔はマントの裾を振った。まるで人が手を振るように。
「さあ、君たちは帰ってもいい」
「待って。このレベル5のクエストは、まさか…」
星動の言葉が終わらないうちに、周囲の環境がまたもや変化した。
次の瞬間、二人は洞窟の入り口に立っていた。
星動と楓奈は、互いの顔を見つめ合った。
星動が立ち上がり、服の埃をはたいた。
「僕がもう一度中を見てくる、君はここで待ってて」
「気をつけてね」
「ああ」
そう言うと、星動は中へと走り去った。
一分も経たないうちに、彼は飛ぶように戻ってきた。
「洞窟の奥の扉は消えていた」
…
純白の修道女が十字架を背負い、洞窟の入り口に立っていた。その表情は険しかった。
楓奈と星動が左右に彼女の後ろに控えている。
「師匠、あの悪魔の痕跡は検知できましたか?」
「いいや、残された魔力の痕跡すら検知できなかった」
「えっ?」
「先生、占い術は?何か見えましたか?」
「それも効かなかった。何も見えなかった」
修道女は振り返り、真剣な面持ちで二人に向き合った。
「君たち、嘘をついていないな?本当に悪魔を名乗る黒いローブを見たのか?」
「はい、師匠もそれが何か分からないんですか?」
「わからない。だが、君たち二人、これ以降、わしの許可なく、絶対に、二度とここに入ってはならない。分かったか?」
こうして、星動たちの初めての冒険者クエストは、あっけなく幕を閉じた。
彼らが思いもよらなかったのは、再びこの地を踏むことになるのが、五年も経ってからだということだった。




