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竜の棲む島  作者: 四つ葉
第一章
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 ウルバーノにはヴェトライオ職以外の新人だけの特別な仕事がある。ヴェトライオたちの仕事ぶりの見学である。特に販売だと客からヴェトライオたちの仕事ぶりや、製品ができるまでの工程、ガラスの色の付け方などを聞かれるので、実際に様子を見て、答えられるようにするのが目的だ。イレーネとトトが店舗にいる時間帯に少し抜けさせてもらい、ルカは時々ヴェトライオたちの仕事ぶりを見学した。今日はヴァレンティーノとニコラの作るレースグラスの作り方を見学させてもらった。暑い日が続くので、工房内は業務用の大きな扇風機が何台も稼働しているが、千四百度を維持する溶解炉の熱で工房内は日によっては外よりも熱い。ニコラは毎日Tシャツにジーンズと軽装だが、ヴァレンティーノはこの暑さの中でも黒い長袖のシャツを着て、ガラスを作っていた。

 レースグラスも宙吹きガラスの一種だが、一般的な吹きガラスとは一部工程が異なる。まずはヴァレンティーノが作業台に十五センチほどの白いレース模様の入った棒ガラスを加熱台に並べる。レースグラスは加熱台に並べたこのレース棒の柄や並び順で模様が決まる。ヴァレンティーノがレース棒を再加熱炉グローリーホールで熱して柔らかくした後、ニコラが取った小さな下玉の付いた吹き竿で棒ガラスを筒状に巻き取った。このガラス棒の巻き取り作業が通常の宙吹きガラスとは異なる作業である。

 巻き取った棒ガラスを再加熱炉グローリーホールで熱し、柔らかくしたら、ジャックと呼ばれる鳥の嘴のような道具でレース棒の形を整え、再度加熱し、ジャックで筒状のレース棒をすぼめて閉じる。ヴァレンティーノの動きに迷いはない。手際が悪いとレース模様が流れて、歪な仕上がりになるからだ。単色のガラスとは違い、レースグラスの難しさはレース模様を壊さないことである。ほんの少しの迷い、手際の悪さ、判断ミス。それらが全てレース模様に表れる。レースグラスを作るときのヴァレンティーノの視線は常にガラスにあった。一瞬たりとも、レースの模様の変化を見逃さない真剣な眼差しを、ルカも気が付けば真剣に見つめていた。

 ヴァレンティーノが先端にガラスの付いた吹き竿をくるりと回転させ、息を吹き込む。宙吹きガラスの一番の見どころだ。熱せられたガラスが丸く膨らんでいく。ヴァレンティーノがガラスを膨らませていくほどに、ガラスの底から白いレース模様が波のように広がっていく。この光景を見るのが、ルカは一番好きだった。

 必要な大きさまでガラスを膨らませると、ヴァレンティーノは作業台の上で吹き竿を右に左に回転させながら、新聞紙を重ねて水で十分に濡らした紙リン越しに手でガラスの形を整え始めた。大きな手が意外にも繊細に動いて、ガラスの形を調整する。ヴァレンティーノの僅かな指の動きに合わせて、ガラスは素直に形を変えた。ガラスは素直だとマエストロたちはよく言う。吹いた通りに膨らみ、手を加えた通りの形になる。ガラスはその人の心の形なのだと。だからかヴァレンティーノはいつもガラスと真剣に向き合っていた。

 形を整えると、パドルと呼ばれる平坦な木の板でガラスに平らな底を作り、後ろに控えていたニコラがポンテと呼ばれるガラス種を付けた竿をレースグラスに近づける。ヴァレンティーノが慎重にポンテ竿をガラスの底の中央部に繋げると、ピンサーと呼ばれる大きなピンセットで吹き竿側に軽く切れ込みを入れた。ピンサーのU字の持ち手側でカンと軽く吹き竿を叩くと、レースグラスは簡単に吹き竿から離れた。成型中のレースグラスを持つのはポンテ竿を持つニコラである。

 再度、ニコラが再加熱炉グローリーホールでガラスを加熱し、ポンテ竿を受け取ったヴァレンティーノがピンサーでガラスの口を僅かに開き、不要な部分はハサミで切り落とし、ジャックで口を大きく広げていく。最後までヴァレンティーノは集中を切らさず、一気にガラスを仕上げていく。仕事中のヴェトライオたちは物静かだ。最初は声を掛け合いながら作業をした方が良いのではないかと思ったが、今ではそんな風には思わない。彼らは常にガラスと対話を続けている。言葉は必要なかった。

 必要に応じて道具を変え、再加熱と微調整を繰り返して、シンプルなレースグラスのコップが一つできあがった。最後にポンテとガラスの接合部にピンサーで切り込みを入れ、ポンテを叩いてガラスを切り離し、成型作業は完了する。

 成型したガラスをニコラがジャックでガラスを挟んで、すぐに徐冷炉へ向かう。徐冷炉の近くで作業をしているロレンツォが徐冷炉の扉を開けてくれた。成型を終えたガラスは五百度程あるので、工房内にそのまま放置しておくと急激にガラスが冷えて割れてしまうためだ。翌日以降、徐冷炉で常温にまで冷めたガラスを加工職人たちが研磨し、製品になる。ヴァレンティーノは休みなく、次のレースグラスを作るために、加熱台に事前に必要な長さに切り揃えられたレース棒を並べ始めた。

 ルカもレースグラスが出来る理屈は理解できたが、作れる気はしない。少しの迷いもなくレースグラスを作るヴァレンティーノにルカは思わず惚れ惚れしてしまった。

「……ヴァレンティーノさんみたいなのが、タイプなんですか?」

 感嘆のため息をついたルカの後ろからニーノに突然声を掛けられる。

「!?」

 声にも内容にも驚いてルカが後ろを振り返ると、ヴェトライオたちに何か用事があったのか、ニーノとクラウディオが背後に立っていた。

「タイプって……何言って」

「すごく真剣に見てるから」

 違うんですか、とニーノが不思議そうに首を傾げる。

「ニーノ、セクハラだよ。見学ですか? ヴェトライオたちはカッコいいですよね。私もカルロが作業しているところをついつい見入ってしまいます」

「そう、見学です。何でもかんでも惚れた腫れたに繋げないでください」

 ただ純粋に職人の技術に感心しただけで恋愛感情に繋げられるのは、ルカとしては心外だった。

「そうですか。ルカさんは恋人いないんですか?」

 ルカの不快感を感じ取っていない訳ではないだろうにニーノがルカのプライベートにさらに踏み込んでくる。

「……いません。仕事に関係のない話をしないでください」

 仕事に一切必要のない情報提供を求められて、ルカは思わず表情と言葉が固くなった。

「すみません。この人、ゴシップ大好きで」

 さすがにニーノの発言は無礼だとクラウディオは判断したようで、クラウディオがニーノの肩を叩いてニーノを窘め、ニーノの無礼を謝罪した。ルカとクラウディオに発言の不用意さを警告されても、ニーノはどこ吹く風とばかりに平然としている。

「いやあ~。ヴァレンティーノさんの連日の修羅場、楽しかったなあ。最近、落ち着いちゃって、つまんないんですよ」

 あまり感情の起伏が激しくないニーノが珍しく表情を明るくして、うっとりとため息をついた。どうやら彼の最高の娯楽が落ち着いてしまって、ニーノは新しい娯楽を探しているようであった。

「そんなに遊び人なんですか?」

 真面目そうだったので意外だなと思いつつ、ルカは思わず二人に尋ねた。成人したら娯楽が結婚と子育てくらいしかない田舎の宿命なのか、白島の人たちは、越してきたばかりの独身のルカに恋人はいないのか、結婚しないのか、結婚したらどうするんだと、プライバシー無用の質問を平気でしてくる。そのことに都会で生まれ育ったルカは些か辟易していた。しかし白島出身のヴァレンティーノはそういう振る舞いはなく、工房の中で一番他人の私生活に踏み込んでこない人だった。

 ニーノと同じようにヴァレンティーノの修羅場を見てきたであろうクラウディオがルカに説明する。

「こんな田舎なんで、あんなに見目も良くて、清潔感があって、男らしくて、都会で仕事していた経験があって、名誉職で、会話が成立して、同棲経験があって、女性との付き合い方を知っている三十代半ば以降の独身男性って滅多にいないんですよ。ですから、ヴァレンティーノさんがマエストロ兼マスターになった時、見合いの話が殺到して本当にすごかったんです。でも本人が全ての見合いを断るもんだから、どうして見合いをしてくれないのかと女性が工房に押しかけてきたり、泣き出したり、もう修羅場も修羅場……」

 これ以上は言い表しきれないとクラウディオが静かに首を横に振る。

 ヴァレンティーノは体が大きい。百八十センチを優に超える長身で、毎日鉄の棒を振り回すヴェトライオなので体も鍛えられており、顔立ちも良いし、身だしなみを整えることも手を抜かない。バイヤー時代の先輩に身だしなみを厳しく指導されて、それが染みついているだけだと本人は言うが、接客を販売員に任せるため適当も適当な格好をしているヴェトライオも多い中で、ヴァレンティーノは良く目立った。黒髪にオリーブ色の目をしていることも人目を引く要因だろう。

「いくらマエストロと同時にマスターになったとは言え、なんで修羅場になるんですか? 女性にも男性の好みもあるでしょうし、自然とお見合いも分散するんじゃないんですか?」

 確かにヴァレンティーノは男性から見てもカッコいい。だがそれだけで見合いが殺到する理由にはならないのではとルカは不思議でならない。田舎の見合い事情を何も知らないルカにニーノがぱっと目を輝かせた。

「まともな男って田舎だとあっという間に売り切れになっちゃうんですよ。だから二十代で結婚せずに三十代なって、今更子供欲しさに見合いをするともう見た目も整えられない、女性と会話もできない、エスコートもできない、ようするにハズレみたいな男しか残ってない現実を知るんです。でもたまーにヴァレンティーノさんみたいな独身もいて、その一人に女性が殺到するんです!」

 何とも惨い現実をニーノは楽しそうに教えてくれた。

 ヴァレンティーノがマエストロ兼マスターになったのは、二年前だ。高齢のためステファノがマスターを下りたいと申し出た際、次のマスター候補はウルバーノでキャリアが長く、独立予定のないカルロだった。この時、ヴァレンティーノはまだセルヴェンテであった。しかし、人と関係を作ることが下手なカルロがガラスを作る以外できないとマスター職を泣いて嫌がったので、高齢のマエストロの引退が続いたウルバーノのために白島のガラス協会の人たちがマエストロのテストの採点をちょっと甘くして、ヴァレンティーノをやや強引にマエストロにしてくれた。経緯はどうあれ、外から見ればヴァレンティーノは八年でマエストロ兼マスターになった大変優秀なヴェトライオである。そのため余計に未婚女性たちの間でヴァレンティーノの株が上がってしまったようだった。

「自分だって売れ残りなんだから、その辺割り切って、一緒に成長すればいいのにねって既婚者たちは言うんですが、三十代の独身女性は自分の希望ラインを下げない方が多いので、希望ラインを超える珍しい一人の取り合いなんです」

「カルロさんも独身ですよね? カルロさんは駄目なんですか?」

 ガラスを作る技術だけ見れば、カルロの方が上だ。ヴェトライオたちはその人間の良し悪しをガラスの技術で判断することも多い。だからカルロはヴェトライオたちから大変尊敬される。ガラスの技術があれば白島で職に困ることはないので、結婚相手として適任ではないかというルカの問いかけにニーノとクラウディオが顔を見合わせて、困った顔をした。

「カルロ、全然痩せる気ないからなあ」

 そう言ってため息をついたのはカルロと仲の良いクラウディオである。結婚向きの人なのにと寂しそうな表情さえ見せた。 

 カルロは食べるのが大好きで大柄な体形である。端的に言うと、太っている。ヴェトライオなので一日鉄の竿をもって動き回っているのだが、動く以上に食べているようで痩せられない。でも外食をするときは、何でも美味しく食べ、好き嫌いもせず、食べ残し処理要員として、カルロは大変重宝された。関係を作ることができれば、カルロは良く笑い、良く話す。笑いを取るために率先して行動する。典型的な同性に好かれて、異性に好かれないタイプだった。

「見合いは男女ともに見た目が大事ですし、男性は初回面接で積極的に会話できないと相手にされないんです」

「面接って……」

「見合いなんて就職面接と変わらないですよ。カルロさんは仕事ぶりも真面目だし、白島で職にあぶれることもないし、イカ墨のパスタが一瞬で消えるマジックを見せてくれるし、地元民にしか分からないショートコントで窒息するほど笑わせてくれるし、すごく結婚向きですけど、第一印象と女性のエスコート力を求められる見合い向きじゃないんですよね」

 カルロの良さを見抜けないなんて独身女性たちは見る目がないとニーノが嘆く。恐らく独身女性がカルロの良さを分からないのは、初対面でイカ墨のパスタが一瞬で消えるマジックと窒息するほど笑えるショートコントを求めていないからで、イカ墨のパスタが一瞬で消えるマジックはきっとマジックではないのだろうとルカは想った。

「カルロは人と関係を作るのに時間がかかりますし、そもそも太ってる人は中々見合いが組めないんですよね。三十代の独身女性って写真のジャッジが厳しい人が多いから。太ってる人は一発で弾きます」

 クラウディオがさらに見合いの現実を教えてくれる。肥満体形だと自己管理ができない人と見做されて昇格できない会社もあると聞くが、女性の伴侶選びにも適用されるとはルカも知らなかった。

「そんなに見た目ジャッジが厳しいんですか……」

「俺も社長がヴァレンティーノさんやカルロさん宛に持ってきた釣書の写真をみせてもらったことありますけど、三十代の独身女性ってビックリするくらいお綺麗な人が多くて! 多分、本人が見た目に気を使っているから尚更、適当な見た目の男が許せないんです」

 前職の文房店でも、それ以外の場所でもルカの周りにいたのは大抵結婚し、子供を持った女性だ。彼女たちは身だしなみや清潔感が整っていないことは決してなかったが、驚くほどに美しいということもなかった。だからなのか、たまに結婚指輪をしていない年齢不詳の美人の客が来ると従業員の間で話題にもなった。きっとそういう人の見合い話がカルロとヴァレンティーノに来るのだろう。

「でも中身がね……。独身のマエストロがいるからって仲人さんに連れられて来た方がいたんですが、カルロの前でヴァレンティーノさんの方がいいって言っちゃうような人で。……だから売れ残るんですよ」

 しかし必ずしも中身と外見は釣り合っていないようで、クラウディオが未婚女性への評価を冷たく吐き捨てた。

「カルロさんはやっぱり仕事ぶりを見てもらうのが一番だって、初回面接の前にレースグラスを作るところを見てもらったこともあるんですが、カルロさんの神業を見ても『デブは無理』って……。面接もせず断った女を溶解炉に放り込んでやろうかと思いましたよ!」

 ゴシップは見たいが、カルロが傷つくところは見たくないニーノが、見た目だけで相手を選別した女性に怒りを露わにする。

「結婚相手を見つけるって大変なんですね……」

 どうやら工房を挙げてカルロの結婚相手を探しているようだが、結果は芳しくないらしい。

「でもカルロも悪いところがあるからね。せっかく良い人と見合いしても自己アピールできなかったり、釣りとか車とか男の趣味しか持ってないし、初デートで質より量みたいな店に連れて行っちゃうしで……どっちもどっちなんですよ」

 人付き合いで、どちらか一方だけに非があるということはまずない。仲の良いカルロ相手でも悪い点はきちんと認識できるクラウディオの冷静さにルカは好感を持った。

「その点、ヴァレンティーノさんは女性の扱いに卒がないし、男の俺たちから見てもカッコいいですからね。やっぱり男らしさってのは本能を刺激するんでしょうね。……なんでそんなドン引きしてるんですか」

 次第に言葉数が少なくなってしまったルカにニーノが怪訝な顔をする。

「……田舎の配慮の無さにびっくりしているんです……」

 何かあれば、自分の話もこうしてペラペラ話されるとルカは今からもう暗い気持ちになった。

「こんな田舎、ゴシップくらいしか娯楽がないんです! すぐに分かります!」

 ニーノは人のプライベートに土足で踏み込む遊びをルカにも強引に勧めた。

 距離無しの販売員、挨拶もできないヴェトライオ、毎日遅刻してくるゴシップ好き……と、こんな変な職場なので、ルカの前に採用してた人たちは職種に関わらず、皆それぞれの理由で一週間から一月程度で辞めてしまった。だからいきなり飛び込みで求人に応募してきたルカをウルバーノは藁にも縋る思いで採用したのだとルカは改めて強く思った。

「こら! ルカは仕事しろ! 何のためにそこにいるんだ!?」

 ニーノたちと雑談ばかりしていたせいで、ヴァレンティーノがルカを叱責する。体の大きなヴァレンティーノの叱責の声は一段と迫力があり、ルカは驚いてヴァレンティーノの方を見る。ヴァレンティーノは相手が誰であっても、良い仕事をすれば惜しみなく褒め、仕事の出来が悪ければ迷わず叱った。

「……あ、すみま……」

 これは完全にいつまでもニーノたちと雑談をしていたルカに非がある。せっかく仕事を見学させてくれたヴァレンティーノにルカが謝罪をしようとしたら、ニーノがルカの謝罪を遮って、さっとルカとヴァレンティーノの間に立った。

「すみません。俺たちがルカさんの仕事の邪魔をしてたんで、ルカさんは悪くないです。ところで、ヴァレンティーノさんは、もう修羅場しないですか?」

 そして謝罪もそこそこにニーノは大胆に話題を切り替えた。ニーノはこうした神経の図太さと卒のなさが長所の青年だった。庇ってくれたのはありがたいが、こんな雑に話題を切り替えて、余計にヴァレンティーノに怒られないのかと、ルカはハラハラしながら様子を窺った。修羅場と聞いて、よほど様々な出来事があったのか、ヴァレンティーノがなんとも言葉には表現できない複雑な顔をする。

「……俺はお前の娯楽じゃない……。見合いも断りまくったし、四十手前になったらさすがに静かになったな。俺は静かな余生を過ごしたい」

 一度叱ればもうそれでいいと思ったのか、ニーノの話題に気がそがれたのか、意外にも簡単にヴァレンティーノは話に乗ってきた。

「まだ三十代で、じじくさいことを……」

 まだまだヴァレンティーノの修羅場を見たいらしいニーノが呆れ半分で笑う。

「……どうして結婚しないんですか?」

 ヴァレンティーノとニーノの軽口の叩き合いを聞いて、ルカは思わず尋ねた。プライベートを尋ねられることを嫌うルカがそんな質問をしたことに驚いて、ヴァレンティーノたちが目を丸くしてルカを見返す。その視線に自分が無遠慮にヴァレンティーノのプライベートに踏み込んだことに気が付いて、ルカははっと息を飲み込んだ。

「あ、すみません。結婚するもしないもヴァレンティーノさんの自由ですよね」

「大した理由じゃない。家族を作りたくないだけだ」

 あわあわと慌てて言葉を選び直したルカにヴァレンティーノがあっさりと結婚しない理由を答える。このウルバーノの独身組の中で一番結婚に向いていそうで、良い父親にもなれそうなのに意外なことを言うヴァレンティーノにルカは内心驚いた。

 ニーノとクラウディオは用事のあったカルロの方へ行き、ヴァレンティーノはニコラの方へ戻った。ニコラにレースグラスの練習をさせようとして、ニコラが悲鳴を上げた。


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