前夜暗闘15
36
15時。夕方に近づく極刑城はほんの少しずつ暗闇に落ちていく。
「お帰りなさい、浮向京介さん、鳩野和々さん」
医務室では春花車菊花さんが机に向かいながら何やら書き物をしている。スタンドライトが彼女の顔を部屋の中で唯一照らす。
車椅子がギリギリと進む。こんなにタイヤは悲鳴を上げていたか。ワワさんの押す手にも力が加わる。
「何か分かりましたか?」春花車菊花はこちらを見ない。
「……えぇ、それなりに収穫はありました。ほら、この通り、私の所持品達が」ワワさんは言葉を発しながら、ライトや蓄光シールを菊花さんに見せびらかす。
「なるほど」
「ありがとうございました。京介をお借りさせてもらって。では私はこれで失礼させてもらいます」
「少し、待ちなさい」
春花車菊花はガバッと立ち上がると、ワワさんのすぐ側まで歩み寄る。そして、彼女の目と自分の目をぴったりと見つめ合わせる。
春花車菊花に対して、ワワさんの背が低く。上から覗き込まれる様な体制である。
「どうかしましたか、春花車さん?」
「……手を出してみろ」
凛々しい声が間に響く。左手がゆるりと上に動く。
「やはり、怪我をしているな。部屋に落ちていた紙でも集めたか、指を切っている。そのままでは帰せない、消毒と絆創膏だけでも貼らせてくれ」
彼女はそう言うと、自分の机の戸棚からそれぞれ必要な物を取り出す。ガタガタと揺れる戸棚、掛けられた鍵達が揺れる。多数の鍵と金の鍵。あっという間にワワさんは座らされると手当にかかる。
「無理はするな。傷を隠すな」
「…………」
「さぁ、もう大丈夫だ」
「ありがとうございました」
「このくらいなんて事はない。さぁ、行ってらっしゃい、鳩野和々さん」
促されてワワさんは振り向く事なく、部屋を後にした。部屋には僕と菊花さんが残る。
車椅子が押されてタイヤが回り始める。僕は少し体勢を動かして、背もたれに触れ直す。
「部屋には何かあったか?」菊花さんが話し始める。
「いえ、何もありませんでした」
「ふん、まぁそう言うか」
「僕はあなたがもう少し別の事を言うんじゃないかと思いました」
車椅子はベットまで辿り着き、動きを止める。
「君が何かを彼女に話したのでは無いかとかか?」
「そうです。あなたは僕が自殺をするからと言う理由で話した情報がありました。それを伝えた可能性があります」
「話したのかい?」
「部分的に」
「ふん、ならば問題はない。君の事だ、重要なところを伏せる事を考えられるだろう。それに伝えたのは私だ、殺そうと計画したのも私だ、もし落ち度があるとすれば私にもある」
「…………」
「それに、君にあの手紙について話をしたのは悪くは無かったのかも知れないのだ」
「それはどう言う?」
「……迷宮内において、ミノタウロスの目撃証言が出たんだ。君達が上を捜索していた時、その最中にだ」




