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前夜暗闘13



 春花車菊花の昨夜。


 彼女が初めて事件に気がついたのは怪盗が大きな音を出したからだった。偶然というか、彼女はそれを聞こえる場所にいたらしい。


 その原因を再度確認する為に、彼女はまず中央の広場から探る事にした。一目でこの建物を一望するには効率がいいのは間違いない。


 けれど、彼女が最初に発見したのは怪盗の姿ではなく、君の姿だった。四罪ヶ楽王断の部屋は灯りが無いから、下から見れば発見できない事も妥当だ。


 京介に駆け寄った彼女はすぐに君の容態を確認した。まぁ、本人に説明するのは馬鹿らしいかもしれないが、君からの説明で彼女は今起こっている現状を理解した。


 君の容態を確認し、十分な応急処置を行った後、彼女はキズキに声を掛けに奔走した。幸い、キズキはすぐに見つかり、彼女は彼に対して怪盗の姿を見に行く事を命じた。


 その後、彼女はもう一つの塔。四罪ヶ楽小断の元に向かった。行動の理由は彼女がさきほど言った通り。彼女の精神状態の不安定を加味して、当たり前の過保護を行っていたと言える。


 

 


 キズキの昨夜。


 彼は音を聞いた。何か違和感を感じた彼は医務室に向かったが、そこに春花車菊花は居なかった。


 彼はその場で少しばかり考えを巡らしていたが、必死の様子で走り回る春花車菊花が彼の姿を捉えた。そこで話を聞いた後、彼はここの使用人として走った。四罪ヶ楽王断の自室である。


 向かい側まで走り、もう一つの螺旋階段に立ち会う。彼はそれをすぐさま駆け上がり、部屋の前に辿り着いた。

 

 部屋の前には1人、人影がすでにあった。


 催馬楽古学である。


 催馬楽古楽は自室からこの部屋から出た轟音を聞き取り、聴覚の察するままにこの部屋まで辿り着いた。


 けれど、部屋に入るまでに至るのは流石に行き過ぎた行為であるのは百も承知であるから誰かがここへ来る事を待っていたと言うことである。


「開けれるかい?」催馬楽古学は尋ねた。


 キズキは部屋の鍵を貰う事を忘れ、彼女にその様な思考の余裕が無かった事を思い出す。


「誰かがこの部屋に入っていると言うのなら鍵はかけられていないです。内側からこの扉は鍵が閉められませんし、何か物で押さえつけていないというのなら、必ず」


 彼が発言して、催馬楽古学は何か心を定める様な素振りを見せた後、扉のノブをゆっくりと下げた。この時、キズキは自分が扉を優先して開けなかった事を少し後悔した。


 催馬楽古学は物怖じを感じさせない冷静さを見せながら、扉を開いた。


 暗闇の中、ゆらりと動くシルエットを見知った人間から探す様に頭を働かせる。しかし、その甲斐もなくその人物は己の姿を月明かりに照らさせた。


「俺は怪盗。浪漫怪盗。……どうやらここにはお目当ては無い様だった」


「だったらどうする?」催馬楽古学が返答する。


「押し通るまで」途端、怪盗は唯一の出入り口である扉へと、つまりは自分達へと急接近を試みる。


 催馬楽古学はその怪盗の動きに合わせて、冷静に腰を落とし、迎え撃つ体制を取る。自分はそれを見ていて、行動が遅れる。


 一つ目の接触。

 催馬楽古学は一撃に賭けていた。それを避けられると部屋から飛び出され、追いかける事は難しくなる事を理解していたからである。


 彼は構える。距離をどんどんと詰めてくる怪盗、早く、視界は不良。


 寄る。目前、寄り切る。


 怪盗は構えていた催馬楽古学を避ける様に、尚且つキズキの懐を抉る様にして抜けていくルートを辿った。


 しかしそれが仇となった。男の武道は空手だった。その長い腕と足はスポーツとしてのレンジを遺憾無く発揮した。足刀蹴り、一本の線を描く様にそれは怪盗に飛ぶ。


 …………けれど怪盗は避けた。体が異様にしなり、人の関節とは思えぬ角度で折れ曲がる。まるで関節の無い人形いや、粘土細工のような滑らかさだった。キズキは体制を崩してしまい、催馬楽の足刀も当たらず。逃げられると一瞬で、確信する。


 崩れそうな体勢のところ、キズキは腕を伸ばした。重心は後ろに動き、腕は唯一の手段だった。腕から指の先は滑らかな怪盗の動きに靡く服の裾に遂に引っかかる。


 必然、ほんの数舜、怪盗の動きが止まる。そこを催馬楽古学は見逃さなかった。一閃、男の拳が怪盗を強烈に捉えた。怪盗は地に伏す。


 そこからは気を失った怪盗を催馬楽古学が押さえ込み。キズキは捕縛用の道具を持ってきた。そこからは簡単な処理を行っただけで部屋の中を直したりはしなかったそうだ。

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