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前夜暗闘12



 鳩野和々の昨夜。


 ……私は昨日の夜、自室で作業をしていた。作業というと些か固い印象だが、出来上がった地図を尚も観察していたんだ。辛うじて見つかった発見も空振りに終わったからな。そんな時に、廊下をバタバタと走る音が聞こえたんだ。


 何事かと思った私は部屋を出ると、奥の方に走り去った春花車菊花さんだった。尋常ならざる雰囲気で、それが事情を聞きたいと思う気持ちを掻き立てたから、後をついて行った。彼女は螺旋階段を駆け上がって、一度姿が見られなくなった。


 それでも道は一本だった故に追いかけるのは簡単だった。私も駆け足で階段を登った。そしてようやく彼女の姿を捉えたと思えば、彼女は最上階の部屋の扉に耳を当てていて、それを戻す様な仕草だった。はぁ、はぁと息も上がっていた。


 この最上階の部屋というのは、四罪ヶ楽小断の部屋の事だ。


 彼女が周りを確認するような動きを取ったから、私は視界に映るように近づいて声をかけた。「大丈夫ですか」とな。すると彼女は呼吸を落ち着けてから「はい、大丈夫です」と答えた。


 その後すぐに、四罪ヶ楽真空がやって来て、気怠げに「何をやっているの、全く」と言った。私はそれに返答しようとしたが、春花車菊花が私より先に返事をした。


「緊急事態だ。自分の娘の心配くらい、出来ないか?」そう四罪ヶ楽真空に言い放つと、菊花は扉をノックした。


 空間にはノック音が何度か響く。しばらくしていると、内側からノック音が返って来た。そこで3人は四罪ヶ楽小断の無事を確認した。


「何があったかと思えば、病気の娘の心配とは。まぁ、迷惑な事」


「…………」

 真空は嫌味を口にするが、扉に向かい続ける春花車菊花はそれに返答する事はない。次第に静かな空間が重さを増していく。


「まぁ、良いわ。でもバタバタとうるさくするのはよして頂戴、こちらだって気が立っているの貴方だって分かっているでしょう?」


「…………」


「……もう行くわ」四罪ヶ楽真空はそう言って立ち去った。


「音を立てて、すまない。あの子の無事を確認する事は私に取って、かなりデリケートな時期なんだ。彼女には病がある。皮骨崩壊という不治の病。それを受け入れるのは並大抵では無い。後、2日、彼女が形だけの生か、形も残らない死を選ぶか。自由な選択を与えてあげたいのだ」春花車菊花は私に向かって、そう言った。言ってはいたが、悲しげな独白に聞こえたよ、私には。


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