前夜暗闘9
…
カーテンを閉じると暗闇が部屋の中に広がる。分厚いカーテンは光を通すことを許さず、隙間一つすら部屋には無い。
暗闇の中、ぼんやりと浮かぶ淡い光がある。薄い黄緑色の蛍光色が部屋の一部分にだけ。その光に僕とワワさんは歩み寄る。
「これは……蓄光シールだ」
淡く光った蓄光シール、探し物の一つである。台紙から剥がされたシールの何枚かが部屋の中央の柱に貼られて小さな円を作り上げている。
「調べてみてくれ、京介」ワワさんはゆったりと言う。
僕は恐る恐るそれに更に接近する。手を動かして、指先で一枚一枚を剥がしていく。
「これは……ひび割れか」
辺りを探っていくとそのひび割れが一枚の岩の板の様に外れるのが分かった。
「柱のこの部分、ひび割れに沿って取り除く事ができるみたいだ」
嵌め込まれた板を力で引っ張る。容易に板は外れる。中もまた暗闇だ。
「ワワさん、カーテンを開けてくれ」
ザッと、カーテンは引かれる。光が目を刺し、一瞬目が眩む。僕は目を一度閉じてから、光が届く中を確認する。
「何かが内側の鉄棒に括り付けられている」
金属の反射がその物体から見える。全容は把握しきれず、僕はそれに向かって手を伸ばす。冷たい空気を掻き分けて、僕はそれに触れこちらに引き寄せる。手触りは丸く、幅は3センチ位の物体。
「……懐中時計だ。古びた懐中時計。間違いない、僕はこれを見たことがある、怪盗の私物だ」
「犯行現場に残された私物。これは怪盗がわざと残していったものとして間違いなさそうだな」
「……中に君の懐中電灯も掛けられているな。ちょっと……何だか……取れないな、何だこれ」
「とりあえずそれは置いておいて良い。懐中時計、これが意味するところを先に理解せねば」
ワワさんは怪盗の持っていた懐中時計の蓋を開ける。中から紙切れがポロッと落ちる。四つ折りにされた紙片があった。彼女は拾い上げると紙を開く。
「読むぞ」と一つ、言葉を挟み込む。
「……『前提。この内容を誰に伝えるかを記す事は出来ない。内容を細かく記す事も出来ない。理由は俺が今これを残す事のままである。これを見つけた人間に結論を述べる。全てが水泡に帰す、全てを守るんだ』」
読み上げられた後、その紙を僕も自ら読みに近寄る。乱雑な筆致だった。紙は部屋にある物の一部を切り取ったものであり、製作者の急ぐ様子がありありと浮かぶ様である。
「私が思うに、怪盗は薄々何かに勘付いていた。けれど、その真実を確認する方法を彼は取れなかった。だから私達にその役目を託した。敵と表現するには些か情報不十分だが、その何かから全てを守らねばならない」




