前夜暗闘5
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カラカラカラとタイヤの回る音が廊下の中を響く。車椅子が動いている。
車椅子に乗っているのは負傷中の僕で、後ろで押しているのは新聞部の先輩ワワさんである。
「物凄く止めたそうな顔をしていたな、春花車菊花さん」そうワワさんは僕に話しかける。
「医者としてはな。小さく無い事故の起こった後に、安静にしないと言うのはそれだけで迷惑だろう。本当、あの部屋を出る時の彼女の目つきと言ったら、思い出すだけで背筋が凍るよ」
「大丈夫だ、安心して良い。およそ私の方が怖い女だし、性格も悪いはずだ」
「そんな事を誇るなよ……」
「けれど別に良いじゃないか。当人が体の不備はほとんどもうない事を証言しているし、事実彼女は外出を許可してくれた。怖い事なんて無い」
ワワさんはそうだろうな。けれど、多分僕はこれから本島に戻るまでの日々を医務室で過ごすことになる。春花車菊花さんとはほぼ常に顔を突き合わせることになる、良い関係でいたいのだ。
「私としては君の外出を許してもらうよりも、件の部屋に入る事を許される方が難しいと考えていた。彼女の医者としての意識の高さには感動すら覚える」
「そんなに簡単だったのか?」
「スラスラと、まさに立板に水だった。まぁ、怪盗を自認する男が部屋に侵入するのとは話が違うからな。鍵以上の防犯も無かったようだし、入る事自体に問題があるような場所では無さそうだ」
医務室を出てぐるっと180°廊下を回る。窓からは四罪ヶ楽王断の娘、小断の部屋が見える。赤く重たげなカーテンが部屋の中をぴたりと隠す。
螺旋階段の前に着く。ここを登れば四罪ヶ楽王断の部屋がある。
「ここからは歩くよ」僕はそう言ってから、腕で体を持ち上げて両足で立ち上がる。ピリッと背中に痛みが走って体の力が抜けそうになるが、堪える。
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
壁に片手をつけながら登る。
「中には何があるのかな」
「さぁ、一個人の部屋だとすれば衣服や調度品の類はあるかも知れない」
螺旋階段を2周ほどした所で部屋の前に到達した。大きな木の扉。この部屋の持ち主が特別だったからと言って特に他の部屋とは違いがないように見えた。
「それじゃ、開けるぞ」ワワさんは僕に向かって宣言してから扉を開ける。
ガチャリという音と共に、扉は軽い力で内側へと開いた。途中で物にぶつかったらしく、止まる。4割ほどしか開かなかったが隙間から抜けて入り込む。
「これは確かに菊花さんも後処理に苦労するわけだ」僕は自然と言葉を漏らす。
泥棒が入った後の様なという比喩表現を使ったりするけれど、部屋の中はイメージ通りのそれだった。棚という棚を引っ張り出して中身をぶちまける。壁にかかっていた絵画や装飾品の類が地面に落とされ、引き裂かれる。陶器の破片は飛び散る。
これは何かを探すのはかなり大変そうだ。直感的にそう思う。




