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前夜暗闘2



 怪盗が僕の自殺の邪魔をした。この乾いた答えに僕は狼狽せざるを得なかった。


「……どういうことですか?」言葉の意味は理解していたが、質問を返さざるを得なかった。


「言ったままの意味だよ。昨晩の彼は怪盗だった。だから彼は四罪ヶ楽王断の部屋に侵入したようだ。目的のものを探し求めて。そして十分に探し回った後、君の縄を切った」


「縄を切った、何故?」


「分からないな。けれどその後、君の落下と同時にかの怪盗の行動は明るみに出た。よって、怪盗は無事に武力行使で捕縛することが出来たよ」


「捕まった、あの怪盗が?」


「キズキ、それに催馬楽古学と言った男性が素早く駆けつけてくれたおかげでね。怪盗の抵抗もやむなくと聞いた」


 何かが京介の中に違和感を掻き立てていた。彼女の言葉だけを理解すれば、僕の縄を切らなければ怪盗は見つけられることすら無かったような口振りである。


「怪盗は今はどこにいるのですか?」


「捕まえた後は一晩明けた今朝、牢屋の方に入れてくれたはずだ」


「牢屋、そんなものがあったのですか」


「それはそうだ。ここは極刑城、罪人の集まるところだ。無い訳が無かろう」


 言われてみればそれはそうだった。が、いざそれが実生活の身近にあって昨日まで会っていた人間が拘束されている事を想像すると、やけに生々しく背中に嫌悪感を思わせる。


「あぁ、浮向京介君。会いたいと思っているのならそれは諦めた方がいい。牢屋は迷宮の入り口付近にある。無論地図は渡さない、この意味が中を歩き回った君には分かるだろう?」


 彼女は実に真剣な表情をしていた。頭の中に言葉が浮かぶけれど、彼女の表情を見ていると霧散していく。


「……なるほど」

 僕はどうしようもなく、仕方なく頷く。


「手荒な真似とは思わないでくれ。彼の身柄を確保できたとは言え、部屋の中は何が破損したかも分からない程に荒れ果てているんだ。たとえ変化があったしても気がつくことも出来ないだろう」

「……勿論、この旅の期間が終了すれば同時に本島へは送り届けるつもりだ。彼と話をするのはそれからにでもすれば良い」


「…………」


「さ、まだ君は休みたまえよ。不思議なくらい怪我は少ないけれど、自殺方法の副作用もある体調は万全にするべきだ。今はミノタウロスやら怪盗やらの事は忘れてね」

 春花車菊花はそれだけ言うと身障者ベッドから遠ざかっていく。見えなくなってから、ギシリと椅子が沈み込む音がした。


 僕は天窓から覗く小さな空を見る。青々としている空は時間と天気を表す。動く雲が止まらない時間を僕に知らせてくる。


 何かがおかしかった。怪盗の投獄は予兆である。やはりこの建物の中には何かが強く蠢いている。焦燥が昨日までとは比べ物にならないほどに大きくなっていく。



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