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親子の塔11



「『ホンモノ』がこの世に存在しないと君はそう言ったのかな?」怪盗は言う。


「あぁ、春花車菊花さん本人から僕は聞いた。その様子だと、やはり君の狙っている『四罪ヶ楽』と言うものはそれであったと見て良いようだね」


「『ホンモノ』が、『四罪ヶ楽』がここには存在しないだって?」


 僕は彼の言葉を耳にしながら、白いTシャツを首から通して着る。それから次にズボンを履いていく。


「……いや、正確に言えばここの管理者であるところの人物がそのような物の認識をしていない体をとっていたと言う事だが」


 怪盗は僕の言葉を聞きながら装飾品を外していく。脱衣所にまで厚い上着を彼は着込んで入って来ており、それを下ろしてから、黒いと白のストライプシャツのボタンを外していく。


「ではあるか分からないじゃ無いか」


「いや、確かに今の情報だけでは分からない事の方が多いだろうし、存在がその最たる例であるのは実に噂を追い求める人間にとっては不安な要素だろう」


「つまり、分からない事が多いから諦める様に京介は俺に促しているのかい?」


 シャツのボタンが一つ外れる。中央部のボタンを外しきって、次に手首へと移る。


「違う。僕は純粋に分かる事だけを話すべきだとしているのだ」


「分かる事?」


「分かる事。僕はそれが何なのか、どう言う物なのか詳しくは知らないけれど。知らない触れないを是とする様なものなのは分かる。事実、それ一つを争って狙われている命もある」

「春花車菊花さんはそれを伝えさせる為に、先の短いつもりの僕にその話を伝えたのかも知れない。メッセンジャーとして」


 手首のボタンは中央のボタンよりもきつく留められている。一つ外すタイミングで、ぷつりと小さく音がする。


「怪盗、これは湾曲した彼女からの忠告かもしれない。君は大々的に自分は怪盗だと言いふらしているし、そもそもこの島に来る様な人が弱い目的意識でない事は理解出来ているだろう。その上で、他のものにも知らしめる為の忠告」


 もう一つ、怪盗は手首のボタンを外す。僕は自分の白いシャツを取り出すと着る前に折れ目を出来る限り伸ばす。


「そうか、それは悩み(ロマン)だね」


 怪盗はそう言い残すと、残りの服をざっと脱ぎ去って、風呂場へと向かってしまう。中に入るとその姿は水蒸気に隠れて見えなくなった。


 白いシャツに黒いズボン、裾は糊をつけて長さを上げているが、足を通した時にその糊が少しだけ取れているのが分かった。そこを避ける様に足を通し切り、服を気を得る。


 20時と30分。残り15分で僕は自殺する。





 

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