親子の塔10
30
20時、僕は風呂に入る。極刑城の中にある一室、二つの部屋の壁を破って一つにした一室。そこに集合風呂があった。
部屋にも一応、シャワー室はあるから特にここに来なければいけない理由は無かったが、体を清めるのに湯船に浸からないと言うのも少し気持ちに引っ掛かりがあったのかもしれない。
吸い込まれるように僕はそこへ向かっていた。
気持ちがいい。自分の体温よりも高い水温が脈々と流れる血を程よく温めている。血は感覚ほどは変わっていないだろう、皮膚の表層が温められているか、神経の知覚か。ホメオスタシスとはよく出来ている、僕でも簡単に死ねないように。
石の板が嵌め込まれた壁、床で出来上がった小綺麗な風呂である。雰囲気的には美術館のような静謐が中を満たしている。音はゴポゴポと温められたお湯が循環して湯船に落ちるものだけだ。
「あがろうかな」
のぼせない程度で僕はさっぱりと浴槽から体をあがらせる。僕の足跡が僕の後を追って脱衣所に向かう。
「これで死ねれば良いけれど」僕は独り言を口にしながら、髪の毛をボサボサと拭いていく。
数時間前、春花車菊花は僕の話に切り替わったのち、僕の自殺計画を簡潔に述べ始めた。安楽椅子でも、毒ガスでも、服毒でも無く、最も自殺らしいと言えばそうらしい方法を彼女は僕に説明した。
細かい話はその場所に行かないと分からないけれど、それだけの事にやれ極刑だのと述べられるとこの選択すら陳腐なものになりそうだから、止めるけれど。
「陳腐なものだろう。俺はそう言っている、かねてよりな」
声だけがどこからか聞こえる。後ろからか、前からか何処からかは声の反響と声量の変化で上手く誤魔化されている。ただ誰がそれの持ち主かだけが明瞭で馬鹿馬鹿しいが。
「怪盗、何だこんな時にまで僕のところにまで来て、そんなに僕に死んでほしく無いのか?」
何処かに潜む怪盗に声をかける。すると、それは右耳元にそよ風と共に現れる。
「そんな質問必要か。どう言おうとも否定する気で問いかけて来ているのに」
「分かっているなら僕にあまり構うなよ。今日1日は新聞部の手伝いという間柄で関わり合っただけだろう。仲が良かったとか勘違いされては困る」
「…………」
「そうだ。新聞部の2人はどうだった?余り実りの無い調査結果だったかも知れないが」
「あぁ、そうだな。実に残念がってはいたかな。おかげで今も頭を抱えて思考に、作業に没頭してるだろうさ。彼女らは相変わらず楽しそうに自分に向かっているよ」
「僕がそうじゃ無いって?」
「そんな風に言いたい訳じゃ無い。人生はそんなものだ、ともすればどう転んだとしても良いものですら無いのかも知れないと思う事もある」
「……」
「最初から京介を止めるつもりなどは無い。その選択が正しい解決なのだとすればな」
「それは止めるという事を意味しないのか?」
「さぁ、それは京介の受け止め方じゃ無いか?俺はそう言った意図を含めているつもりは無いね」
「…………そう言えば、お前が盗もうとしている『四罪ヶ楽』それが何か分かったぞ」
「『四罪ヶ楽』。そうか分かったのか」
「『ホンモノ』とも称されていたそれ。死ぬ前に言っておこう、そんなものは無いらしいと」
怪盗は僕の言葉を聞いて止まる。




