親子の塔6
…
封筒に付けられた印。牛の頭を持ち、人の体を持つ生物の形を見せつける印である。
紛れもなくミノタウロスである。
「それは手紙で良いんですね。中身が白紙というわけでは無く、本当に文字列がある手紙なのですね?」
「そうだ、これは紛れもなく手紙だ。置き手紙で、そして随分と威圧的だ」
彼女はそう言いながら、僕の前に白い紙を差し向けると、その三つ折りを解いていく。
ぽつりぽつりと視界の中に写って無味乾燥のゴシック体の羅列が文章を成していく。書かれた全ての内容が飛び込む。
『四罪ヶ楽真空、相続権を放棄しろ。さもなければ、お前の命は無い』
「……これはまた、純粋な脅迫文ですね。伝えたい事が明瞭で素晴らしくはあると思いますが、改めてこれが四罪ヶ楽真空さんの机の上に置かれていたという事で良いんですよね?」
「そういう事だ。どうしようもなく、短絡的で、直接的で、簡易で、攻撃力のある手紙だろう。しかも、それが鍵のかかった部屋の中にあったというのだから恐怖は狂気となりうる。彼女ほどではなくとも、理解は簡単に」
「鍵はどこにあるのですか?」
「私の机の横にかけられているこれらがこの建物内の全ての鍵のそれぞれだよ」
ジャラジャラと光り輝く鍵が数十本ほどバラバラに掛けられている。鍵は一律で同じ大きさであるが、一眼見てどれがどの鍵かと分かる様にはなっており、番号が振られている。
2本。違うサイズの鍵が混ざっている。それは振られる番号はない。
「私もいつ何時でもこの部屋にいる訳ではない。故にもし部屋を開けた隙を狙って誰かが鍵を盗んでいたとするならば、その人物は絞ることが出来なくなる」
「部屋の鍵ですから、当人が持っているものと2本存在しているという事ですか。……あぁ、なるほど、だからこそのあの剣幕がある訳ですね」
「そういう事だ。誰がやってもおかしくはないが、1人確実にこれが行える人間でその上、それをやる理由がある者がいると、彼女はそう思っている」
「あなたですね、春花車菊花さん」
表現に難しい。他人にはあまり見せないであろう強さと弱さの混ざり合った顔をこちらにして見せる。助けを請おうという訳ではないのだろうけれど、四罪ヶ楽真空の追求の正当性が彼女の持つ余裕の逃げ場を無くしている。
「私は確かに四罪ヶ楽の地を追われれば、人として途方に暮れることになる、そして何より相続権を放棄するというのは四罪ヶ楽王断の財産を直接実子が全て受け取ることになる。そうなれば、私は間違いなくそれを小断の延命に利用する事になるだろう。皮骨崩潰によって消え去る体をコロコロと変えてでも」
「もう少しで20歳になるのは僕も知り得ていますけれど、相続などまだ先の話では無いのですか。その間は彼女の命を伸ばしつつ、解決策を探す事も出来るでしょう」
「……それならば良かったのだが、残念ながらタイムリミットは一つでは無いんだ。20歳になれば進行が極端に早まる皮骨崩潰、回復させる方法はない。そしてもう一つ、四罪ヶ楽王断、彼が行方不明になってからもうすぐ7年が経とうとしているのだ」




