親子の塔4
…
扉の隙間から差し込む夕闇の中にあるこの部屋は内側も随分と暗い。電気も必要最低限程度にしか無く、夜に至れば相手の顔以外見える事はなくなるだろう。
医者は先ほどまでの騒がしさを耳の中で再現してから、顔を俯かせる。そして持ち上げて、僕の前にある椅子に腰掛ける。
足先は明後日の方を向く。
「また、要らないところを見られたね」
「いえ、僕は特に気にしていませんよ」
「ならば良い……私が君がそうやって言うであろう事も分かっていたと言う事を除けばな」
「…………」
春花車菊花は窓の無い部屋の中の隅をぼんやりと眺める。僕は彼女を見つめたまま、声も発さず。
「四罪ヶ楽真空は小断の実の母親では無い。あの子が生まれてから母親が亡くなって、少しの時間が経った後に王断が連れて来たのだ」
「はい、その話は聞きました」
「聞いた?誰から」
「堂山銅鑼と言う番人です」
「……なるほど、君たちはもうそんな所まで」
そう言ってから、彼女は椅子に座る自分の体をこちらに向ける。僕らの間に存在する小さな座り机の上に肘をついて、じっとり目が僕に視線を這わせる。
「元気だったかい、ここ数日会っていないから」
「元気でしたよ」
「そうか、なら彼の状態を診る必要は特には無さそうだ、迷宮に引き篭もっている番人でも」
「彼は昔から少しばかり口の軽いところがある。縄張り意識は強いのだが、それを守ろうとする力が弱い。色々聞いたろう?」
「そうですね、少しばかり」
「はは、少しばかりか。ミノタウロスの話でも聞いて来たのか?」
「少しばかり」
「それと大蝋翼機刻の話でも聞いて来たのか?」
「それも少しばかり」
「なるほど、少しばかりを随分と沢山聞いて来たみたいだ」
彼女は肘から直線に伸びる手の甲に顔を乗せていたが、その形がぐでんと少しくたびれる。
「しかし本当に少しです。彼は分からない事を分からないとはっきり言ってくれる人だった」
「けれど、それを誰が知っているか話してしまった」
「その通りです」
彼女はどこからか出した腕時計を手で持ちながら時間を見る。僕は何時か気になったが、暗がりに盤が見える事はない。
「君が来るにはまた早すぎた。早過ぎるほどに。だからこそ、私は君がしたい話というのが全くもって君にとって関係の弱いものである様に思う…………だからそう、私が言いたいのは、君は本当に死ぬ気があるのかいということ。それだけが分からない」
また飛ぶ様な眼光が彼女の優しげな目に現れる。
「それには問題はありません。とっくのとうに堅く生暖い願望が付かず離れず、気持ちの底を這っているので」
「それでも君が目の前の謎に立ち向かう理由には程遠い距離があると私には思えるが。中心人物も君では無い様だし。彼女だろう、鳩野和々。恋仲か?」
「ある訳ないですよ」
「まぁ、君のその意思は尊重に値する。死ぬ前の人間の頼みなら、どうであれ聞きたいと思うのは人としては純粋な気持ちだ」
肘をぐったりと崩す。一度顔を突っ伏すして、はぁーっと息を吐きつける。そして顔を上げる。
「何が聞きたい?」




