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親子の塔3



 コンコンっとノックの音が僕の耳に届く。中からは人の気配が近づく。


「はい、ただ今」

 扉が開く。小さく開けて、内側からは春花車菊花がこちらを見やる。


「あぁ、浮向京介。やって来たか、入りたまえ」


 勧められるままに、部屋の中を進む。朝見た様に簡素な椅子がそこにはあって座る。春花車菊花は僕の目の前には座らなかった。空席の椅子を残して、立ったままである。


「少しだけ待っていてくれるかい?奥にまだ人が待っていてな」そういうと、カーテンに隠された医療用ベットの付近に寄って歩いていく。僕はぼんやりとその後ろ姿を見ながら、彼女に伝える事と彼女から伝えられるであろう事を頭の中で整理する。


「だから、貴方しか無いと言っているのでしょう!!古い付き合いだからと調子に乗っているじゃ無いの?!」叫声が突如響く。


「……今はお客が入って来ているんです。ここに居ても良いですが、静かにしてくれますか」


「冷静ぶっているんじゃ無い。まるでワタシが冷静を欠いているように映るじゃ無い。いつもワタシばっかりを馬鹿にしたように見る。貴方はいつもいつも」


「…………」


「最後までここを占拠していられると思ったら大間違いよ。ワタシはここまでついに辿り着いた。このベストなタイミングで。ワタシは恵まれている。選ばれている。四罪ヶ楽王断はワタシを選んだ、この運命は決しているのよ。それを邪魔しようとは全てを愚弄している。ただの医者の分際で」


「私は知りませんよ、その様な事など。それに四罪ヶ楽の事だって」


「はぁー、ほらまた欲がなくて、慎ましい私を演出する。そういうところがずっと前から嫌いだった。品のある様に見せて、ほんとに下劣で、陰惨な中身の女だ事」


「……本当にもう少し声量を落としてください」


「わかった、分かったわよ。もう良いわ、もう良いわよ。時がくれば、流石の貴方だって、引くに引けないでしょう。それまでに良い返事を考えて、渡すものは渡してちょうだいね」

「ではまた来るわ。よろしく」


 カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ。


 ぼくの横を通り過ぎる。四罪ヶ楽真空である。全く、彼女は僕のことを一眼も見ることも無く通り過ぎる。路傍の石に意識を強く配る必要など無いと言わんばかりに。


 前にも似たような経験をしたな、ほんの数時間前に。その時は彼女に無視こそされなかったけれど。無視をする方が彼女らしいと言えばそうである。


 奥から春花車菊花がゆるりと歩いて出る。僕の顔を見て、弱く口角を上げる。

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