親子の塔2
…
怪盗の煌めく懐中時計の針は16時過ぎを指す。極刑城は煉瓦造りの外壁に囲まれた円形の建物である。外壁は城よりも更に高く、最高点である2つの塔よりも更に倍以上の高さを誇る。
よって日差しが外壁の中に差し込む時間は短い。午前中に朝日が散乱して弱く中に降り注ぐのとは違い、夕方の日差しは直線的で内部に光を持ち込まない。早めの夕闇がやってきていた。
「暗いな、悪いことをしても咎められない位に」怪盗はそう呟く。
「悪いことをするつもりなのか?」
「さぁ、どうだろう。けれどどんな悪事もお前ほどじゃあ無いと俺は思うが」
僕は彼の言葉を背に受けながら、城の中に入る。相変わらず重厚な木の扉が内側とを隔てている。
「京介、行くのかい?」
「いや別に早急にって訳じゃ無いだろうが、聞きたいこともある。分かるだろう?」
「春花車菊花ね。君も随分とお節介焼きだね、ほんとに。こんな身も蓋もないミノタウロス探しに付き合って、挙句帰り道が存在したかも危うい所に行かされて、それでもまだミノタウロスについて色々な角度から探ろうとする」
「ロマンだからと騒いでいた奴が何を今更言うかと思えば、心配はありがたいけれど」
「心配などでは無いよ。ただ、死ぬ前に何かを成したいと思っているのなら、それは随分と手前で選択を間違えているのでは無いかと思うだけだ」
「間違えている、そう見えるかい?」
「俺はロマンと共に生きている。ロマンは現実とはかけ離れた存在だ、並行に流れているもので触れ合う事は滅多に無い。でも生きる現実に沿って流れるものでもある、故に死んで成せるロマンなどない」
「何度も語るな、浪漫野郎。何事も理由ってものがある、なる様になっている、全ての物事はすでに決まっているんだよ」
「因果か。ロマンではある、諦めのロマンだが」
僕は怪盗の顔を見る。建物の中にはぼんやりと光が灯っている。
「怪盗、お前は先ほど聞いた話を新聞部の2人に伝えてくれるか。僕はあの医者のところに向かうから」
怪盗に背中を向けて廊下を渡る。本当にあの怪盗が僕の言う事を聞いて、彼女達に話を伝えるかは本当のところ自信は無いのだが、これ以上を僕が伝えるのは少し無責任に感じた。
入り口から数分かけて、春花車菊花の部屋の前に到達する。医務室という部屋の意味が頭の中を巡って、少しでも体の付いている砂、土を払う。パタパタと、取れる気配もなく白い跡が残り続ける。
程なくして、ノックしようと扉に近づく。
腕を上げて、ゆったりと骨の硬さが伝わる様に。




