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 大蝋翼機刻。発明の天才。

 僕が聞き及んでいるところはそれくらいだ。彼がどんな人物で、どのような人生を歩んだのか一つも知らない。


 ただ、この目の前の巨躯の男はその名前に対して言葉にできないほどの畏怖を感じているようだった。


 肩が微弱に震える。


「あれの名前を聞いてどうする、あれはもう過去の遺物だ。お前たちはここへ何をしにきた、おれが答えでは無いのだろうが、おれに答えを求めている、何故か」


「……」


「あいつは本当によく何でも作る人間だった。人間ではあったのだろう、だがその人間離れした意欲と創作への才能は止まるところを知らなかったと言える」

「そして、あいつの作ったものは尾を引く。奴の才能のように何処までも、何処までも」


「僕達はこの島に残る噂を追い求めています。僕と言うか、僕の知り合いがですが」


「これでは無さそうだな」

 番人は傍に未だ眠る怪盗を指差す。


「はい、それでは無いですね。それはただの浪漫怪盗です」


「浪漫怪盗、か。名前は何という?」


陽路かげろ影牢かげろう。自分ではそう名乗っていました」


「……なるほど、陽路影牢。怪盗そしてロマンか。つまらない事をする者もまだいたのだな、ふむ」

 小さな声で番人は思案する。考えに陥って、戻って、こちらに視線を向ける。


「偽名の怪盗、それもまた時代錯誤。何事も繰り返されるとは言ったものだ、大蝋翼機刻の名がおれの元まで届いたのも何の因果か。まったく、静かに死なせては貰えない」

 男は徐に腕を上げると、届くレバーに手を伸ばす。ガチャリとそれを降ろすと、何やら機構が動き始める。


「大蝋翼機刻は陽を嫌い、水を忌む。奴は己の為に陽を制御し、水を操作する。おれが奴を初めて見た時から、奴はそうやって周りを自分の好きなように作り替えていった。やつの何に呼ばれた、聞かせてくれ」


「『ミノタウロス』。人身牛頭、クレタ島の呪われた子ども」


 番人はまた徐に腕を上げる。そしてレバーに手を伸ばし、また降ろす。


「おれは極刑島の番人だ。ここに関する事は何もかもを見てきた。四罪ヶ楽王断はこの島の王で、おれ達の全ての王」


「ではミノタウロスにも心当たりは無いですか、ほんの些細な事でも」


 番人は立ち上がる。僕に背を向け、天井から降りる縄を見つめる。滑車から降りる縄、それを掴むとグッと引き摺り込ませる。ゆっくりと何度も。


「ミノタウロス、聞き及んではいない。今までその様な話は一度だって聞いた覚えはない。この島の歴史において、おれにおいて……」


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