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極刑島6

 なんだか分からないけれど、どうやらトラブルが起こったようである。見た目は派手な4、50代の程の女性だ。化粧っ気が大いにあり、顎をひん剥くように上げて高圧的だ。今はアパートの一室に居を構えているから、あんなタイプの人が近所に住んでたら嫌だなとふんわりと思った。


 キズキ青年が彼女とマンツーマンで会話してどうにか処理しようと言う風である。強く大きい声と言葉で威圧する女性に対して、キズキ青年はしどろもどろと言った感じだ。先払いのツアーであったし、飛び込みの参加というのは通常では困難である事は想像に難く無いが。


「ワタシを乗せる乗せないの事象はあなたが関する所ではないわ。そもそもガキにどうこうと言われる筋合いは無い。ただあなたはワタシの言う事を聞いて、船を島まで辿り着かせれば良いのよ」


「しかし奥様。これは菊花きっかさんが提案された極刑島の為の大事な、大事な……」


五月蝿うるさいわよ、泥ガキ。あの医者がなんと言おうと構わないわ。管理を任されていたとしても、たかが1人の医者に指図される謂れも無いね」

 話し合いはヒートアップしていく、いや、正確に言えば片や熱を帯びていき、片や冷え冷えと今の状況をどう治めるかをあたふたとしている感じである。


 それを見兼ねてか、外で待っていた初老過ぎ程の男性が2人の会話に割り込んで行った。僕には絶対にあんな事は出来ないが、第三者である彼の侵入は少なくとも、あの女性を落ち着かせる効果はあったようで、声は落ち着いたようだった。それ故に、そこから会話がどのように進んだかは聞こえなかった。


「凄いな、あれは。あのデカ女はモンスターか何かか?それとも獣の類か」

 そんな冷静な顔に対して、珍妙な姿の蛇でも見たような声で気持ちを吐露するのは辞めて欲しい、わわさん。


「あんまり見ない方が良いぜ。結構外からは丸見えだから」

 キズキ青年に未だ強情な態度をとる女に睨まれたら、まさに蛇睨みと言った鋭い眼光が飛んできそうである。茶々を飛ばす大学生、彼女とは共に行動する事が多くなるかも知れない。今のうちにたしなめておかないと、僕も共々後でおっかない事になりかねない。


 僕に注意されてか、わわさんも船内に視線を戻し、背中を外側に向ける。僕は彼女の向かいに座ったから、外側が常に見える形になる。

 

「わわさん、所で話の途中だったから、続きを紹介してもらえないかい?紹介を続けてもらえないかい?」


「そうだな」と無気力に落ち着き払って女子大生は返す。


「私がわわさんなのはもちろん、ご承知の通りだろうから、続いて彼女を紹介する。彼女はかおり永遠とわ。同じ〇〇大学新聞部の一年生だ。つまり、私の後輩だ」


 つまり、私の後輩だ。と言う説明付け足しは必要が無かったような気がするけれど。後輩、先輩という響きが好きなのだろうか、あまり表情に出さない彼女だけれど、誇らしげに見える。


「よろしくね、香さん」


「すみません、よろしくお願いします」と香永遠はぺこりと頭を下げる。黒髪に少しグレーのメッシュが入った髪色。髪型はミニボブ。こちらはわわさんに比べて大学生と言う印象を強く受けるような見た目だ。話すのは不得手という感じで、声も小さい。


「今から私達が向かう島。えと、それでは、どこからどこまで話したら良いのだろうか。まぁもちろん、必要な全てということなのだろうけれど」

少し先輩大学生は思案する。


「では、そうだな最初にこのツアーで私達が何かを何故探さなければいけないかを話そうかな」

ステンと改まって鳩野和々は座り直して姿勢を正す。命運を分ける学力テストを返却する先生の様に落ち着いた雰囲気で。


「私達は、私達2人と君を誘い込んで島への調査を協力させた私の友達。3人は新聞部の同じコラムを担当する3人なんだ」


「同じコラム?」


「そう、同じコラム。と言っても我々はまだ低学年だ。任せられる誌面の大きさも文字数も限りなく少ない。3人で、一つのコラムでも随分と待遇の良い方だと言える。3年に上がっても文字に起こさせて貰えないなんてザラだからな」

 真摯に彼女の目は強くこちらを向き、言葉は奥に冷たい火を帯びる様である。意識がうっすらと見えてきた気がする。


「彼女と一緒に一度調査をした君なら分かるかも知れないが、我々がコラムに載せようとしているのは通例的に宗教と伝説、噂」

 通例的に宗教と伝説、噂。通例的にという言葉の意味はつまる所、新聞部先輩方お歴々がいて、それを引き継いでという言葉だろうか。小さなコラムでも任されている低学年。誌面掲載に躍起になる新聞部の跋扈する部員達。何となくではあるが、新聞部員の彼女達がなぜ見ず知らずの僕にさえ頼りにしているのが予想が付いた。


「つまり、僕がそれに関与する事になった理由というのは、その伝統的なコラムがピンチを迎えていて潰えようとしているという事で良いのかな?」


「大体はそんな所なんだ、話が早くてとても助かるよ。そこを認識されているか、されていないかでは大きく我々の向かう先の先は霧がかりが濃くなってしまうからな。浮向京介君。君には本当に迷惑をかける事になる。前の一件もそうだが」

 前の一件とは、僕の友人の1人、新聞部の1人との一件での事だろう。あの時もまた彼女は確かに新聞部としての取材も兼ねて、かの旅館の自然文化的な背景とそこに取り巻く河童の噂を追っていた。


「あの時の取材による情報から、我々のコラムは少なからず人気を取り戻した。新聞部内での評価も上々であったし、昨今の戦争、政治関連のショッキングでアクティブな誌面の総取りに小さなメスを入れられた事に違いは無いだろう。存続の日々は一応取り戻された。存続の危機は依然としてあるけれど」


「それで今回も気が抜けないという訳だね」


「あぁ」一言つくと、彼女の顔には翳りが落ちる。気丈に、普段然として振る舞っているようではあるけれど、彼女にも彼女なりの沈み込みたくなるような思いと考えがあるのだろう。


 その時、ガチャリとドアが開く。


「すみません、大変長らくお待たせいたしました。今から極刑島へ向けての航行を始めさせていただきます」キズキ青年はドタバタと雑に説明を振りまきながら、船内から船外に入り込むと操作室へと移る。


「いよいよだな」そう、鳩野和々は意を決する様に言った。



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