中間回答3
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行く先は最奥の壁に到達する。縄を繋がれた僕と怪盗は、2人の女の背を追う。
「さてさて、着いた。中間回答だ」
鳩野和々はいつにも増して陰を引くような音を声として発した。この暗闇のせいであるのはいうまでもなく、暗闇は人を自分がみたい様に見せる効果があるらしい。明確に人の姿を歪ませる。
「良いんでしょうか、こんな事って」
香永遠が彼女に横から言葉を発する。こんな事ってどんな事だろうかと思う。それを縄が括られた僕達に聞こえる様に口にしているのは態となのだろうか、それは無いか、うんそうだよね。
「構わないさ。一応、協力をしてくれるとは言っていたからね。まぁ、死ぬ事は無いだろうからな」
「……おいおい、ワワさん。僕は確かに協力をするとは言ったが、だからといって生死に関わる様な何かに協力するとまでは言っていないつもりだったのだけれど。もしそのつもりで聞いていたのなら、今訂正するから、この縄を解いてはくれないか?」
「ふむ、それは確かにごもっともな意見だな。理解は出来る。私と京介には随分の考え違いがあったのかもしれない」
「それなら、再契約という事にしよう。新たな言葉で約束しよう。危険な事は無しと、徹頭徹尾に叩き込んでくれたまえ」
「だか、それは出来ない。君の気持ちは痛いほど分かる、分かるとも。和々の和は平和の和だから、断腸の思いだと言っても良い。けれど、出来ないのには理由がある、正当な3つの理由が」
ワワさんはあいも変わらずユルユルとして丁寧な言葉遣いでノーマルに話す。改めて、礼節を重んじる研究発表でも聞いてるみたいだ。
「出来ない理由って?」
「一つ目、これは必要な事だからだ。言わずもがな、今も我々は打てる手が極めて少ない状況で出来る限りの事をしなければならない。少ない可能性でも試していかなければこの期間で答えらしきものには辿り着けないだろう。これが表の理由の1」
「表の理由、不穏な言い回しだな。裏の理由でもあるみたいな」
僕の口振りに鳩野和々は笑う。今までには一切、一切合切見せる事の無かった悪い笑みがそこには広がっていた。
「何故、この件に関してあの好奇心旺盛な私の友達が一歩引いたのか分かった気がする。アイツは馬鹿だが、変に勘は鋭い。流石誇らしき私の親友だよ」
鳩野和々は小さく笑う。彼女の耳に僕の質問は空気に霧散する。彼女はそっと僕に近づく、そこからは僕らにだけ聞こえる距離。
「……次に2つ目、君は言わずもがな我々に借りがあるだろう。脅すつもりは無いが、そう聞こえたら申し訳ない。だが、理由も聞かないで住み場所を提供するというのは誰でも了承できる様なものでは無い。君が住み場所に困っていた理由は分からない、だが逃げてきたという事だけは分かる。私は特に親友から事情を聞いてはいない、ただ過去の件においてその状況が生まれたと仮定すれば、ぼんやりとでも理由を浮かび上がらせられる」
「私は平和的だ。あの子よりも余程な。だからこそ、火種は出来るだけ起こしたくは無い」
「……君が今している行為は火種を起こす行為の最たるものなんじゃ無いのか?」
「いや。必要な結果の為に不可欠であり勇気のいる役回りを正当な方法で、至って平和的に出現させているだけだ」
「こんな脅しが平和的だって?」
「平和的だよ。私は君の性格を知っている。君はこんな風に頼んでも断ったりしない。いや、頼まれればどんな事だって引き受ける性分だ」
「…………」
「私からみれば、君の存在は火種に見える。我々との関係を絶って欲しいとは思わない。触れてしまった時点でその火はこちらにも移っているのかも知れない。であればそうであろうと無かろうと、私は最低限のリターンが欲しい。致し方無く第三者に情報を渡しても、絶対に相手の情報を貪る作法がある様なリターンが」
彼女の正義は確かに一直線をここへ引いている気がする。何も変わらず、誰に対しても変わらず同じルールの中で人と接して来ているのだ。今更になって自分に対して、そのルールの刃先が向かっただけなのだ。平和とは彼女にとってそういうものなのだろう。
「……それでも、これは僕がこの今からの作業を抵抗せずに行う方法であって、何人に当てはまる事では無いだろう。いやだから、つまり、2人行かなければ行かないとしても自分を即座にメンバーに含めないのかは、疑問だけれどね」
「ふむ、確かに自分で行く方が合理的に見えるか、変なこと怪盗に託すより」
「しかし、私の親友は私の事を話さずに居たのかな。そんな筈は無いのだけれど。彼女が誰かと友好関係を結ぶのに私の話を使わないなんて事は無い筈だ」
「まぁ、そうか、だが3つ目の理由を述べればそれも分かる事だ」
「……裏の理由3。単純な話。私の性格が極めて悪いだけだよ」




