鳩野問う14
…
「壁の移動ばかりに囚われていたがそうじゃなかったという事だね、ワワさん」
彼女はこちらを向いて小さくコクリと頷くと、また歩みを進める。僕はそれに合わせて、速さを決める。遅過ぎず、速過ぎず、一定の間隔が開くように彼女の後をつく。
「ワワさん、この迷宮は壁が上下動して、迷宮の形を決めていた訳ではない。いや、一応ほとんどはそうなのだろうけれど、必ずしもそうではないという事だね。迷宮の、迷路の構造を全て決定づける為に必要な要素は壁だけでは無かった」
「一時間毎の迷宮の動き、その時に中に入っていなかったから、気にしていなかったが。動いているんだね、床が」
「そういう事だ。この迷宮はどうやら、壁を時間毎に決まった形に上下動させながら、床を同時に動かしているらしい」
「それが分かるのが、床に空いている穴だ。迷宮内の行き止まりは壁な事もあれば、穴である事もあった。それらを僕らは勿論記していた。全ての穴を確認できている訳ではないが、中心に近い部分の穴は確認が取れていた。こう、パラパラ漫画の要領で見たら一目瞭然という奴だ」
円形の迷宮に扇形の穴が空いている。暗かったから穴の形などは気にはしなかったが、地図上でははっきりとその形を浮かばせる。その穴の扇形が一定間隔にズレていくのが分かる。
「一時間毎にきっちり15度、その穴の端から端までの距離を動く。もしこれが全ての穴に等しく、与えられた動きであるのならば、中央から外側の円になるに従って、円周は大きくなる故に、それに合わせて、この穴の大きさも大きくなっているはずだ」
「加えて、迷宮を入り口から出口までを確認している時に壁の数を記したが、通路が24になるように壁が配されていた」
「15度に動く穴と、24の通路。全てを確認している訳ではないけれど、そこから推測するにそれぞれの穴に穴が空いていて、それぞれ24の穴が一日で迷宮を一周する形に床は動いていると予想出来る」
「敢えて、ここの作者がこの様に、この時代に対して簡単に、単純な作りで迷宮を構成しているというのならば、そこには意図がある。意図して迷宮を作っているというのなら、法則性があり、予測が出来る」
ワワさんは言い放つ。暗闇の中に声高に。
「京介、改めて確認するが、催馬楽古学、彼はここの作者は『大蝋翼機刻』と言ったんだよな?」
「あぁ、そう言っていた」
「なら、可能性は高い。あの発明家が歴史の中から消えたのはもう何年も前になるが、彼が極刑城に身を潜めていたというのなら、この建物の存在に理由もつく」
「建物の存在理由?」
「あぁ、四罪ヶ楽王断は全てを極刑に処す事で均衡を保つ存在な訳だが、だからと言って人を1人殺せば全てのバランスを取ることが出来るほど、この世は上手くできている訳ではないだろう。産み落とされた発明が他の者に渡って仕舞えば、その発明家を殺そうともその収拾を行い切れない様に」
「であれば、それをどうする。発明が他の手に渡って仕舞えば、ダメだと言っても極刑王はその為に何をする」
「知らない、そこは本人のみぞ知る所だ。全てを請け負うというのが、噂の中の極刑王という人間の仕事とは言うが、それが本当なのかは分からない。出来るのかさえ、凡人の我々では想像も出来ない。ネットやら、雑誌やらの虚実入り混じる1ページの中の出来事だ」
四罪ヶ楽王断の人となりを知る事は出来ない。それを取り巻く人間である大蝋翼機刻という発明家の事も分からない。ただ、今は彼らの情報が公になってはいないと言う情報だけを内に取り入れておこう。
「それでワワさん、僕が問いたいのは一つなのだけれど。僕は今まだ答えに到達していないのだけれど」
「だからそうつまり、壁と床、この迷宮の動きを理解したけれど、これがどう言う風に次の為の鍵となるのか。そこが分からない、答えをミノタウロスと置くのだからそこに繋げるべきなのだろうけれど」
ワワさんは僕の言葉を受けて、小さく頷く。
「ミノタウロス、それに繋がるのかは未定だ。でも次の方法は決まっている。しかし、今は迷宮の探索に時間を当てよう。この1時間と次の1時間、これで次の方法に移ることができる」
そう言って、壁を叩く。今回も彼女は辺りを構うことなく、最短で直線に近く外側に向かう様に進んできた。数えてもう24本目の通路上、一番の外側。
壁を叩く。24本目の通路の行き止まりの壁を叩く。音の反射で位置でも分かるのか、いや流石に分かる訳ないか。
僕は地図を見る。手元には渡された3時間分の地図がある。内側から数えて24本目の通路と、現れた壁を見比べる。過去、3時間にもこの24本目の通路まで、新聞部の2人は到達している。
僕はそれを確認して、この1時間で確認される迷宮の地形を書き記していく。




