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鳩野問う9


 紳士は昔を目で直接見る様に、目の前のどこかへ焦点を合わせる。昔を見る彼は耳を安らがせる低音の声で話す。


「発明家・大蝋翼機刻。この島を設計したとされる男の名前。彼の名前が喧伝されていたのはもう3,40年前になるだろうか」


「大蝋翼機刻、聞いたことがありませんね。それ程までに有名な人物だったのですか?」


「発明家としては……有名でしたな。ブラウン管テレビに良く映る様な世間の人気者として有名という訳ではありませんでしたが、彼の発明は現代に繋がる多くの者に影響を与えた事は間違いは無いでしょう。けれど、後世の若者達がその名を覚えていないのもまた当然と言えばそうなのでしょう」


「しかしやはり此処まで聞いても記憶に全く引っ掛かりがありません。当然というのは、つまりはどう言う事なのですか?」


「発明家と言えど、彼の作る発明は家庭的な規模をターゲットにしたものではなかったと言う事です。そう、団体規模、法人規模ないし、国家規模に対して商品を売り込む様な人物でありましたから」


「それは知らない訳ですね。僕は普通の家の育ちですから、そんな未知な規模の世界を歩く人々とすれ違う事はありません」


「確かに私達は彼とはすれ違う運命にあるのかもしれませんな。そうでもなければ、この建物の作者に出会う事が出来ないはずもなかった、ここは彼の土地でもある」


「彼の土地、大蝋翼機刻もまたこの建物に住んでいたのですか、極刑屋の住まうこの土地で」


「その様な歴史があったと私は調べています。真実がそうであると、証明のしようは我々2人には出来ないでしょうが、もしこの建物に長く住み着いていたと言うのなら、現在ここにいる住民が知らないはずも無いでしょう。確かめようがある、心躍りますな、歴史に差し迫るのは」


 紳士は声色を明るくさせるが、落ち着いている雰囲気を崩す事はない。大人っぽい、単簡にそう思う。


「思えば、私がここへ来た目的というものをあなたに知らせていませんでしたな」


「そう言えば、聞いていませんでしたね」


「私の目的、この話に大きく関わる所なのですが、いやだからこそ此処まで先に話す必要があったのですが」

「私の目的は、四罪ヶ楽王断と大蝋翼機刻、この2人の歴史を追い、彼らが作り上げたと言われる極刑島の歴史を紐解く事にあるのです」


 2人の男と島の歴史についての歴史研究。紳士は初めて目を細めて、また何かを見つめながら、髭を触る。程よく色の抜けた髪の毛は彼の色気を膨らませて、静謐さを表現する。


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