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鳩野問う3



 少年は恋をした、青年は恋をしている。


 この一つの文に、怪盗が何を特別視して、意識を込めたかったのかがありありと分かる様だった。


「あの塔の最上の一室。それこそ、春花車(はるかしゃ)菊花きっかと言った医者の医務室、その横についていた螺旋階段から登った先に恋のお相手が存在する」


「大体、話の目処がついてきたぜ。つまり、キズキ青年が想っていると言う相手は四罪ヶ楽(しざいがらく)小断(こだち)だと言うのか」


 同級生のクラスメイトの恋愛事情を噂するみたいなノリで、僕らは窓辺で柔らかな風を浴びながらそんな話をし始める。


 ただ、それが僕と怪盗とで行われている事が実に大きな不可解なのだけれど、特に僕は恋バナと言うやつには一度として参加した事が無いのだ。だからこそ、興味があると言えばある、自分の恋愛感情などは地獄の果てにすっ飛んでいっていたとしても、心は常にスキャンダラスを求めていると言ってもいい。


 そこまでは言わなくても、聞く分には嫌な気はしない。自分より若い世代の恋慕を。


「そう、話が早い。四罪ヶ楽小断、四罪ヶ楽王断の実の娘。2人いる実子の1人だ」

「身寄りがなく引き取れた使用人と、引き取られた先の高貴な娘との恋愛模様とはこれいかに、正に王道のロマンでは無かろうか」


 言い方が野暮ったい。ふむ、何だか、分かってきた。何故、態々この話を怪盗が僕に聞かせたのか。理由もなく、自分だけが手に入れているキズキ青年の裏話という秘匿していても利用価値がありそうな情報を簡単に渡す理由を。


 こいつはこの話をしたかったのだ、自分の趣味ロマンにあった話を偶然に聞いてしまったから、それを共有したかったのかも知れない。


「手紙ではあるが、会話は続いているらしい。そのバックナンバーの数々を俺に見せてきて、照れながらも随分とこれはどうだ、あれはどうだと意見を求められたよ」


「お前、変な事は言っていないだろうな。僕は割と生態系が外界の人間などから不自然に破壊される行為は好まないんだぜ。ともすれば、僕はお前をもろとも一緒に地獄行きに処す覚悟を持たざるを得ない事になる」


「大丈夫だ、安心したまえよ。それは俺だって同意見だ。恋が実るも実らぬも、これは双方の意見の問題であって、他人がとやかくいう問題では無い事を理解している」


「割にはズケズケと彼について知っている様だが」


「これがズケズケかどうかはお前がキズキ青年と話せば大方分かることだ」


 大人らしく無責任に青年の恋愛事情について語る怪盗。凛とした横顔、その目は塔の上に存在する窓に向けられている。近くには丸い模様の描かれた旗がパタパタと揺れている。


 窓は下から見ると、太陽の光が反射されてその中が見える事はない。辛うじて見える物は濃赤色の分厚いカーテンのみである。


 娘が1人でに、顔を出したりはしない。


「それでもちろん、知っているんだろうな?」

 僕はあまり内容を公にする様な事はせずに言葉を選んでそう言った。何か言葉にすると軽んじてしまうそんな気がしてしまったからだ。


「ふん……あぁ、もちろん知っている。知っていて、それでも彼らは手紙を月に一度ほど交換し続けて、ただ今のこの時間、他の事象など決して何も起きはしないような顔をしながら、日々を自適に過ごし続ける」

「少々、狂った様に。女の病を忘れて」


「……皮骨ひこつ崩潰ほうかい。肉の乾燥と、骨の摩耗による、死に至る病」


「春花車菊花、あの医師はそう確かに言っていたな、盗み聞いた。キズキ青年はその崩潰を鱗の取れる様とも表していた。見ていない俺達には全く想像に易くは無いが、酷い状態なのは分かる」


「しかし、後二日か」

 余命、残り二日。彼女が20歳になった瞬間に、皮骨崩潰を発生させるウイルスは彼女の神経系、脳細胞を更に著しく蝕み始め、静止させていてなお手先足先から崩潰を引き起こし、その状態を次のステップへ移行させる。生命維持活動の瀬戸際のネクストステップつまり、死へと。


「キズキ青年はその点では大人だ。我々と同じく、等しい死のランダム性と無情さを理解している。それこそ、彼の話を、彼の言葉で聞く事が最大の近道だろうが、俺はそう語らせてもらう」


 何か、まだこの怪盗に聞きたい事は頭の中にポツポツと出始めたが、それを口に出す事は憚られた。キズキ青年の口から聞きたかったのだ。こんな小狡い方法では無くて、正々堂々と彼の言葉で頂戴したかった。


「そうだ、キズキ青年が人を殺した事があったかどうかと言うところだったな。端的に言えばそもそも居なかった」

「恋する彼がこの島に辿り着いた時には、四罪ヶ楽王断はいなかった。キズキ青年からの証言が俺の中での理由だけれど、それ以上に彼が生きてこの島にいる事が何よりの証拠になるのでは無いかな」


 四罪ヶ楽王断はもう十数年は前にその存在を社会の陰に隠してしまっている。引退していると考えれば、キズキ青年の殺人が四罪ヶ楽王断の有無などに左右されるとも思えないか。


 加えて、キズキ青年の証言もあると言うなら、疑う余地はない。少なくとも今の所は。


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