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鳩野問う1


19

 昼、12時と10分。長い食卓。最後の晩餐の様に長いその食卓に肘をつけながら、鳩野和々、地図を矯めつ眇めつ。


 僕は斜め向かいから、それを見ながらちんまりと食事を続ける。ワワさんの頬っぺたに付いている赤いミートソースが今にも落ちそうにしながら、落ちない事をただ横目見る。


 新聞部の隣には、新聞部が続く。鳩野和々の隣には香永遠。こちらも食事を完全に止めてしまうほどの集中ではないが、強く地図へと意識を向けている。


「で、怪盗。お前は随分と優雅に食べているな。出された料理を」

 振舞われた料理に毒が入っているかもしれないなどは考えないのか。君は怪盗だと大々的に発しているのだ、もうちょっと自身の身の安全を考慮するべきじゃなかろうか。


「毒入りなどそんな事はある訳が無かろう。疑うなら、俺の食べ物と交換してあげようか?」


 え。何を言い出すかと思えば。毒が入っている可能性があるのか、自分から言い出したけれど改めて。


 無論、入っているなら致死性の毒が、そう思えばしがない僕と言う人間はぜひに賞味したい気分だけれど。けれど。


「要らない、食べかけを寄越そうとするな。僕には予定がある、先の予定がな」

 小声で怪盗にだけ聞こえる声量で話す。


「……作ったのはキズキと言うあの青年らしい。そう思えば確かにこの食べ物で自殺を図るのは京介の望むところでは無いか。何だったか、人の死に慣れない人間は嫌なんだったか」


「人の嗜好をそう簡単に語るなよ。お前にロマンが必要不可欠な様に、僕にだって不可欠な金科玉条がある。人はそうやって自分を不自由にしながら、真っ直ぐ進む方法を画策するものだろう」


「ふむ、考え方は嫌いじゃ無いな」


「それに、君はキズキ青年についても何も知らないだろう?」

「彼の見かけで、人を殺していないだろうと仮定しているのだろうけれど、彼だってこの極刑島の住民だ。血の匂いに慣れないはずも無いだろう」


 怪盗は微笑みながら、椅子に座りながら前後へぐらぐらと揺らす。腕は横に垂れる。


「……彼はあまり多くは知らないよ。ここであった筈の出来事も、ここに残っているべきだった物も。その殆どを知らない。君にとって、つまりは自殺志願者である君にとって利益のある人間ではない。君の為を思って言っておこう」


「またをお為ごかしか、怪盗。そう易々と僕だってお前の口車に乗せられたりはしない。火車に連れ去られるならともかくとして、君とのドライブはご遠慮願いたいね」


「まぁ、京介、聞きたまえよ。俺が既にキズキ青年から聞き及んだ彼の情報を又聞きしてもそこに悪は生まれないだろう。それにそれこそが、この俺が目の前の美味しすぎる料理を無警戒に食べる理由でもあるのだから」


 それは一理あるのか。この気の抜けた怪盗だって、全ての行動に原理があるとすれば食べ方の一つにだって理由がある、のか、のか?


 いけない、自分が言い始めた事なのに、それすらも何故か疑い始めている。出された料理にいちいち警戒するのは、普通の怪盗の解答では無い筈で、それは志願者であるしがない僕の解答では無かろうか。


 怪盗がそれを話す必要などない。奴の話を聞き始めると、奴の姿がまた一つ増えていく気に襲われる。揺らぐ空気の層を見つめる様に、ぼんやりと奴の姿が柔和になって、線がなくなって、誰でもなくなる。


「ちょっとこっちに来てみろ、京介」

 そう言って、怪盗は長い食卓から窓の方に向かう。極刑城は内側方向に向けてしか窓を要していない。高い壁に包まれている城に窓を外向きにつけるのは無意味だろう。円形の城の内側、心地の良い緑の庭園が広がる。


 近づく僕に合わせる様に、怪盗は窓を開けていく。ぎしっと音を立てて木枠は蝶番と息を合わせて、窓を開ける。


「あれが彼の行動原理(ロマン)らしい」

指先のロマン。澄んだ空気の先にある、円形の城から飛び出る2本の塔、その片方を怪盗は指差していた。


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