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極刑島4

 船に乗り込むと倒れない様にバランスを取る。女性2人は運転席などが詰め込まれている、船の室内スペースに2人並んで座っている。参加者全員が乗ったら、全てが室内に入れる程のスペースは無さそうだ。


 ドアのノブを下げて室内に入る。中には外から確認した通りに若い男性が1人、若い女性が2人座っている。ここまで来て、引き下がる程僕も柔なメンタルでは無いが、ただ知り合いでも無い人物に声をかけるというのはそれだけでも緊張が走るものだ。


 まぁ、背に腹は変えられない。話さなければ、何も進まないし、室内のスペースを慮ると、彼らに話しかけでもしないと自分のプライベートが無さすぎて、居心地が悪いと言えば無いだろう。


「申し訳ないけれど、心当たりがあればで良いのだけれど、新聞部の大学生という立場に身に覚えは無いかな?」

と、僕はこんな風に話しかけた。若干、不審者感のある文章になってしまった。大学生、こと彼女らの立場からすれば、女子大生についてどうこうと質問している文章に聞こえる。それか、事情聴取みたいな、取調べみたいな情報を絞り出すみたいな話し方になっている。


 彼女達はキョトンとした顔をしたままでこちらを疑わしく見守る。改めて彼女2人の顔を見るが、やはり知り合いの新聞部女子大生はこの2人のどちらでも無い様である。知り合いは居ない。


「いや、別に君たちについて、個人的に興味があるからその立場などについて、よく質問しようなどという裏がある訳では無いんだよ。全く無い」

僕は無我夢中で言葉を繋ぐ。


「ただ、僕が浮向京介だったというだけで声をかけたんだ。どうやら、外で立っている紳士曰く、君たちのどちらかがあの人に「浮向京介という人物を探している」と質問した様だから」

彼女達は未だにキョトンとした顔を続けている。まだ説明が足りないのか。何かがおかしい気がする。


「ふむ、じゃああなたは誰なんだ?」

2人の女性のうち、眼鏡をかけた黒髪でポニーテールの彼女が返答する。誰なのですか?か、僕は思い違いをしているのだろうか。僕はついさっき自己紹介を自分の口から確かに述べたはずである。自分は浮向京介と。


「いや、だから僕は浮向京介と言う者だけれど。生まれてこの方、一度としてこの名前で無かった事の無い僕だ」

それでも彼女らはキョトン。


「だから、僕が、僕こそが浮向京介その人なんですよ。大学生新聞部から調査協力を受けた」


「分かってる。私はあなたが浮向京介であるという事を正しく認識している。あなたが浮向京介であるという事は。であればこそ、あなたは一体誰なんだ?」

彼女は腕を持ち上げて、指をその人に向ける。グッと持ち上げられた腕、細い人差し指。その向かう先にあるのは彼女と向かい合う位置に座っている白い肌の男であった。


 指を差されて、前屈みの姿勢で髪をだらんと顔に落としていた暗い印象の男は打って変わる。パッと、姿勢を後部の座席にもたれかける様にして、腕を広げる。


「なんだ、本物が来たのか。つまらないなぁ、折角折角、良い隠れ蓑が作れそうだと思ったのに」

先程までは肌が白く、血色無く、無愛想で影に満ち満ちている様な彼の姿だったが、そこにはもう一片の翳りもない様だった。


 まるで僕に似通った人間だったはずなのに。


 彼女達も、僕も声が出なかった。驚きすぎて声が出なくなる表現というのが存在するが、まさか自分がそれを行う事になるとは思いもよらなかった。ひりひりと目の前の存在に怖気を覚える。


「おーい、それ程に驚いてるなよ。そりゃ、俺だって自分の変わり身でそれ程に驚いてくれるというのは職業冥利に尽きるのだけれど。だからと言って、会話が出来なくなるほどに驚かれちゃ、世話ないぜ。驚きに続く、感嘆の声が俺の好きなものなのに」


「お前は何者なんだ?」

女性として急に見知らぬ人となった男に衝撃を隠せない2人を置いて、僕は先に落ち着き言葉を返す。


「何者って聞かれりゃ、答える他は無い。俺は影路かげろ陽牢かげろう、怪盗だ」

怪盗は明快に鮮やかに自分の身なりをさっと明かす。それが何の憂いも無い普遍普通と言った態度で、自己紹介をした先ほどの僕の様に。


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