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浪漫怪盗8


 時間別の地図は存在しない。少なくとも今の状況では。


「新聞部の先輩として、ここで、君達に、京介に、怪盗に、永遠に問いたい。ここで迷宮の調査を中断するか、否かを」

 冷静に鳩野和々は言葉を使う。


「いきなりどうしたのか僕には見当もつかないけれど。ここで調査を中断しようとは、丸一時間さえ行っていないのに中断とは」

「もちろん、ここで君が全てを投げ出すつもりという事は無いのだろうから、その心配はしていないけれど。だからつまり、君が提案しているのは、別のところで調査しないかという事で良いのかな?」


「……そういう事だ。我々には無いものが多い。一つが地図、二つ目は蓄積される知識、そして時間だ」

「地図がない、加えて内容は変化する。この時点で私は地図の存在する9時以外はある程度の見切りをつける事を考えていた。分かるだろう、迷宮の複雑性、多種多様という二つが混ざり合うその意味を。そして今、9時は終わった」


 1時間ごとに迷宮は形を変える。たった1時間。キズキ青年の先導の行き時点でおよそ、正しい道だけを通り抜けて40分弱。もし、僕らだけで見知らぬ場所で迷う事なく探索をするとなれば、1時間のうちで使える時間は更に短くなる。


 話し合いの言葉の間に。やがて、迷宮の機軸の音は止まる。構造は10時の形に変容して、その形で固定される。皆が言葉を考え始める。


 だが、それでも僕は言葉を発せずに、彼女達も発する事は無かった。ただ1人見かねて。


「おい、京介。なぁ、行こうじゃ無いか。行く他あるまい。迷宮の中のミノタウロスとやらを探しに、形はある、手に取るように全体あり、ここにそれは存在している。目的はある、故に答え(ロマン)はある、掴み取りさえすれば良い、さぁ」

 怪盗は快哉の色で言葉を使う。


 やや空気の馴染まない彼の言葉、けれど最初に出たその言葉は思考に陥りかけた他人に染み入る。染み入り、落ち着く。満ち満ちて、気が沸々。そうして意外にも次に言葉を発したのは、香永遠だった。


「私もそう思います。例え、姿が変わろうとも同じ迷宮内というのなら全くの別物とは言えないかも知れません。ミノタウロスが見つからずとも、他の道が見える可能性だって、ある気がします」

 新聞部の後輩はそういう言葉を使って自分の意見を述べる。続けたい意思を表明する。鳩野和々はその後輩の顔を良く見て、少し自分の中に溶かし込む。


 改めて、鳩野和々は何事にも急ぐ事を知らない。冷静に、冷徹に、全てを取り入れて言葉を選ぶ。正しく。


「理解した。言う通りかも知れない。形而上の存在を追いかけている我々だが、しかしそれは実在する建造物の中に存在する形而上なのだ。それならば、小さな頭の無限より、数百メートルの有限に向かう事にしよう」

「たとえ、この1時間が、次の1時間で無駄になったとしても、それでも」

 ワワさんはそんな言葉を返す。


「そういう事で、私達、2人は再び潜る事にする。効率などと言うものは度外視で、この1時間で把握できる限りの事はする。怪盗はともかくとして、京介も手伝ってくれるか?」


「あぁ、手伝うよ。僕程度で何の役に立つのかなど不明だけれど。僕もやれるだけの事はやらせてもらう。そういう約束だった。生きている限り履行するつもりだ」


 言葉を交わし、再び静寂する。全員が迷宮の暗闇に目を凝らした。螺旋階段は今もなお嫌な熱と湿度ももたらす。


「では私達は先に行く、1時間後ここで落ち合わせよう」

鳩野和々は言葉を残して闇に溶け込んだ。

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