浪漫怪盗7
…
僕は機軸の非生物特有の金属音と油の音を聴く、すれ違い離れていく無数の歯車。駆動音と言えば良いか、作動音と言えば良いか大きな音を発生させている。
「機軸、迷宮の機軸。ここは迷宮の壁と床を動かす所らしいのだ、案内の彼がここへ入る前に教えてくれた」
ワワさんは暗闇の中の幾本の柱の動きを確認しながら僕等にそれを伝える。
「怪盗、時計は持っているか?」
「あぁ、もちろんだとも」そう言って羽織っているコートの胸ポケットを弄る。すっと取り出し、出てきたのは懐中時計だった。一丁前に道具だけは怪盗っぽいというか、旧時代紳士的なアイテムを取り揃えてやがる。後、ステッキとシルクハットが揃えば完璧だ。
「忘れている、大事な事を、京介。昔々は紳士や、探偵、警察だって同じ様な格好する事だってあっただろう。見分けがつかないじゃ無いか。俺は怪盗だからな、マント、シルクハット、ステッキ、ここまでは通常装飾として、加えてマスカレードマスクは必需品だ」
「なるほど、マスクか。持ってるのか?」
「持ってない」
持っていないのかよ、自分から怪盗の必需品だと言いだしたのに。じゃあ、なぜ並べ立てて、挙げたのか謎だけれど。
折角だったら見せてもらいたかった、懐中時計も中々の珍品に見える。目利きの出来ない自分からすれば古そうか新そうかだけの違いだけれど、少なくとも見惚れる良さはある。
だから自称怪盗が持つ、マスクとやらにも興味があったが無いなら仕方がない。諦める。
怪盗はこちらに差し向ける様に懐中時計の盤を見せる。ローマ数字が12方向に配置されて、アラビア数字に慣れてしまった現代っ子の自分としては一瞬読むのに手間取る。
「……えと、今はきっかり10時か。ワワさん、1時間ごとに一度、内部の変更が為されると言っていたかな?」
「内部の変更が為されると聞いたと言った」
「変更されるとは、具体的にはどんな?」
「壁の配置の変更が主だったものらしい。つまりは迷宮、迷路の構造が変わると言う事だ。それが我々に対してどう言う意味をもたらすのか分からない訳はあるまい?」
1時間に一度、迷宮の構造が変化する。それはつまり先の1時間の探索が、次の1時間の探索に意味をもたらす事が無いかもしれないと言う事だ。
ミノタウロスの噂がある迷宮において、その全容を掴む事の重要性は分かっているつもりだ。およそ、この新聞部の2人だって、総当たりで内側の構造を理解した上で臨むことを望んでいた筈だ。
人海戦術と言うのか。だからこそ、何も力の無い僕でもさえ、彼女達は必要とした側面はあるだろう。2人より3人、1.5倍の戦力で、踏破を目論んでいた。
「そう言えば、キズキ青年は地図を片手にここを通り抜けていなかったか。僕達が1度目ここを通った時は9時だった。先の1時間分の地図はある訳だ。なら、時間別の地図もあるんじゃ無いのか、この島の住人なら持っていても」
「それは私も聞いたよ。地図を持っているのには気がついていたからな。だがしかし、地図は無い様だった」
「少なくとも今の時間のものはな」




