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この執行には、理由がある  作者: 端役 あるく
牛人伝説事件

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浪漫怪盗6


 新聞部の2人はこちらをジロジロと見やる。鳩野ワワが初めに開口する。


「京介、来てくれたのか、調査に。いやはや、先に行っていてくれと言われた時には少しばかり協力の意を強く伝えすぎたかと思ったが、しかし来てくれて良かったよ。本当にな」

「それで、その君の隣にいるのは先程の自称・怪盗で良いのだよな。仲良くここまで全力で走ってきた様に見えるけれど」


 仲良くここまで全力で走ってきてはいないけれど、仲良くが違う。そこだけは譲れない。けれど、どう言う訳か、ワワさんは僕らを見てそう思ったみたいだった。息も絶え絶えの僕と、スマートに息を整えきっている怪盗とを、怪盗とを?


 改めて、僕は怪盗を見る。見て、やめてもう一度見た。2度見した。


 怪盗はここへ到着した時とは打って変わって、呼吸を荒くしているではないか。ゼェゼェと気道は音を捻り上げて、顔からは脂汗がにじり落ちる、身体を乾燥から守る様に口腔内に唾液が溜まる、落ちそうになったそれをずるずると引き上げる。


 何なら僕よりもかなり疲弊している様に見える。様に見えるだけだ。それは事実として起こっている体の起こりでは無い、決して。呼吸に合わせて、震える体の脈動は、痙攣まがいの異常が全て作り物だ。僕には不思議と分かる。


「いや……これは……」

 頭の中の酸素がギリギリで、声を出すのに時間がかかる、音にするのは更に体力を要す。否定の気持ちが湧き出る。が、敢えてそれを新聞部の2人に公に伝える気持ちに最後の最後で至らなかった。


 言うのも、馬鹿らしく思ったのだろうと思う。真剣に疲れているフリをしている怪盗を。人間関係のジグザグに馴染む為にしているその彼を。


「探偵ごっこでもしているのか。それはそれは、謎解きのそれに対しての意気込みとしては褒められたものだな。偽物の怪盗でも、用意しているところも含めて」


「……ふん、偽物の怪盗とは聞き捨てならないな、鳩野女史。俺はれっきとした怪盗だぞ。そこら辺で怪盗ごっこしている子供達と同列に語るのは辞めて頂きたい」

 僕よりも先に息を整えて、怪盗がワワさんに返答する。今更、また自分の怪盗らしさを貫く為に。愚かに。


「そうか、なら自分から怪盗だと明かす事を辞めておくんだな。今時、人狼ゲームに興じる小学生だって自分の役職を明かしたりはしないぞ」


 指摘ごもっともだ、ワワさん。僕もそれを思っていた、思っていたし、もう伝えた。

 怪盗は僕に耳打ちする。

「なぁ、京介。改めてそんなにダメなのか、役職を明かすってのは」


 僕に聞くな、またそんな事。僕も言っているし、女子大生でも言っているんだ。僕ら2人の点はおよそ大きく離れていように、それでも両方にバツを付けられてるのだ、諦めたまえ。


 渋い顔の僕を見て、怪盗はまた少しだけ困った顔をする。どうすれば良いのかモゴモゴする。須臾の間挟んで、またキリリと表情が戻る。


「なるほど、分かりました鳩野女史。俺は怪盗ではありません。俺は改心したので探偵になります」


「そうか」

「で、どうしてくれようか京介。君が連れてきたこの自称怪盗君を一体」

 ワワさんの突然の言葉返しに、少し戸惑ってから喉を整わせて返答する。


「どうと言われてもなのだけれど、それでも僕がここまで連れてきてしまっているから。帰れと言うのも酷だろうし、ここは旅は道連れとして大目に見てくれないか?」


「……君が言うのなら許そう。それの、怪盗の扱いは任せるよ。とりあえず約1時間弱の調査を共有しよう」

「その為に一度、機軸まで戻る」

 鳩野和々と香永遠は2人してそそくさと僕ら2人の横を通り抜けていく。その後ろを僕らも自然に追いかける。進み急いで僕が怪盗より先を行く。


 短い螺旋階段。真ん中には支柱が天に昇る。黒い石レンガ。機軸に達する。


「何故、機軸まで戻るんだい?」


「聞いていないのか?」

 

 ゴツ、何かが蠢き始める。ガツゴツ、ガリ、ゴリリ、キリキリ、ズガ、ズギギ。音は続く、続く、鳩野和々が言葉を挟む。


「1時間。1時間に一度、機軸は呼吸をする。そして再び眠る。ここは迷宮の機軸。その意味は、その意味のまま機軸なのだ」

「迷宮はここの動きによって1時間ごとにその姿を変える」

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