浪漫怪盗2
16
怪盗・陽路影牢。未だ無名の怪盗、顔も、形も、スキルも、ノウハウも、何もかも未知で構成される男。陽炎の様に姿を捉えさせず、暗い道を巡る。誰も知らない自称怪盗。
今は未だ本当に無名の怪盗。ある様でない、見える様で見えない、姿形が無い怪盗。でも此処に確かに存在する怪盗。
怪盗は僕の前にその姿を晒す。堂々と、まるでファッションショーのスポットライトをその体に一点集中、一点放火して貰っているみたいに、輝かしく美しく、晴々と。
「おい、怪盗」
「ん、なんだい、浮向京介?」
なんだい?じゃない。そんな事を思いながら、先に自分の中の想像上のスポットライト達を取っ払っていく、さっさと脳内を箒で掃くみたいにして。
「なんだいじゃ無いだろ。当たり前に人様に変装しておいて、それをさも何も無かったみたいな顔でスルーしてるんじゃ無い」
「とりあえず、そのキズキ君のマスクか、メイクなのか分からないが、外してくれないか?話がし辛いったら無い」
言われて、ニヤニヤとしながら怪盗は顔からキズキ君のマスクを剥いでいく、首からメリメリと接着が離れていき、最後にスポッと本当の顔が現れる。
キラキラと汗が飛び散る、それでも爽やかに白い肌が現れて、不潔感とは無縁に思わされる。
「スルーするつもりは無かったよ、本当に無かった」
「ただ、すぐにそれを自分から話すとまるで自分の変装の技術に対して、意見を言って欲しいみたいになるだろう、それじゃ格好がつかないじゃ無いか」
マスクを外してから、腕を上へ大きく伸ばし、肩甲骨から肩甲棘まで肉をグリグリと柔軟に動かしていく。途端、空気が体の中から抜けていくかの如く、縮こまり、線は細くなっていく。
「でも、意見を言って欲しかったんだろ?」
「あぁ、まぁ、そうだね」
言いながらも、体をヒラヒラと動かして壁にもたれつく。一枚の紙が空気抵抗を受けるみたいに、自然な体運びで動く。マタドールの動きを真似しているよう。牛繋がりで恐縮だが、その動きはやけに流麗で闘牛も確かにこれには唆られるだろう。
「まぁ、でも君は変装自体には気が付いていたみたいだけれどね。何故、分かったのか御意見頂戴したい気分だけれど、君が嫌がりそうだから、こちらから先手で言っておこう、『別に教示は結構』とな」
「別に君に教え諭すつもりなど、一つも無かったのだけれど」
「浮向京介、それ程つんけんするなよ。何故君が俺の事をそれ程までに忌避するのか甚だ疑問だけれど。まさか、俺が余りに美しすぎるから、その美貌に対して畏怖を抱いてしまっているって言う訳では無いのだろう?」
「あぁ、そんな訳では無い、決してな」
「じゃあ、別に良いでは無いか。仲良くしようじゃ無いか。俺の唯一の不得は周りに羨まれ、周りの自尊心を大きく引き下げてしまうこの麗姿以外には存在しないのだから。それを気にしないと言うのならば、な」
怪盗は言って、自画自賛の美しい麗顔をニンマリと歪める。如何に憎たらしい笑顔でも、綺麗にあり続けるその顔は確かに彼の不得とまで言えるだろう。
「けれど、確かにお前の顔が綺麗である事は認めるけれど、お前の一番の不得はその性格だろ」
「俺は性格は良い。少なくとも自分自身の存在を認めてあげられる位には、優しい人間だから。自分さえ許してあげられない人間が真っ赤の他人を許容できるとは思わないからな」
「僕の事を言っているのかい?」
「……さぁ、どうだろう」
のらりくらりと、言葉遣いから表情までを自由自在に変化させる。一音一音、まるで別の人間が話しているみたいな錯覚を起こす。歯噛みするだけで何も出来ず、歯が無くなりそうになる程に力を抜けない。
「いやしかし、盗み聞きはロマンに欠けるんじゃないか。少なくとも紳士がやる様な所業では無いだろう。お前がルパンか、五右衛門か、二十面相か、何に影響を受けているのかは分からないが、格好付けるだけの奴じゃ無かったぜ」
「盗み聞きは怪盗の基本だろ。それに俺は紳士を目指してはいない。紳士が俺を目指す事があってもな。絶対的に俺は怪盗で、紳士じゃない」
「ロマンチストである事にかけて、態々名乗るなら同義だろうに」
「だから紳士が俺を目指す事があるのだろう。紳士に窃盗能力がプラスされた上級職が怪盗なのだから」
「遊び人から賢者みたいなトンデモないジョブチェンジを許してたまるか。紳士的な怪盗など、それこそ創作物の中だけの存在だろうけれど」
「故にそこに目指すだけの価値がある」
うるっと、想い馳せる様に遠くを見つめながら、怪盗は宣う。




