極刑島3
…
トボトボと1人で、歩いていると色々な事に気がつく。海沿いは整備こそされているものの人っ子一人見当たらない。道路にしてもそう、住宅街すら見えないので人は住んでいなくとも不思議ではないが。整備されかしこまっているこの風景と伽藍とした雰囲気がやけにミスマッチだった。シャッター街のような、ゾンビによって荒廃した街のような異質である。
そうこうしているうちに、目的地の港に着いた。そこには唯一と言って良い船が一艘だけ港に横並びに居座っている。2人ほど人集りもあるから間違いなく、あそこであっている。
寄って行くと、向こうにいた若い男性が早くもこちらに気づいたようで、手をパタパタと振ってこちらに頭を下げる。
出発予定時間からは少しばかり時間があるから、まだ急がなくても良いのだろうけれど、向こう方に認識されて、手を振られさえすると仕様もなく、テクテクと足を早めて、彼の所に近づいた。
「浮向です。浮つくの『浮』に、向かい風の『向』で浮向です」
先に存在には気づかれていたし、初対面の相手との距離感も掴むのが難しく、青年に対して随分と淡白な自己紹介を済ます。青年はそんな僕に対して、眩しい笑顔で接客する。
「浮向京介さんですね。おはようございます、ありがとうございます。今回、島までの運転手を務めさせていただきます、キズキと申します」
キズキと自分の事を名乗った青年は白い歯をキッと出し、愛嬌のある笑顔をこちらに振り撒く。そして、手に持っていた名簿用紙を挟んだバインダーを取り上げて、よしっと小声を出してチェックをつける。
受付を済ませると僕は手持ち無沙汰になる。知り合いがいる訳じゃないから、急に誰かに話しかけるのも憚れる。ただ、船内にも3人程の人影が見えるものだから、船に早々に乗っておくべきなのか、それとも陸地で悠々と侍っていても良いものなのか、そこは確認を立てるのが自然と思われた。
「これから僕はどうすれば?」僕は質問する。
「出発まで時間が有りますので、まだ乗船しなくても構いませんが、ここは日光と潮風が強く当たる場所ですし、周りには何も有りません。船に乗ってしまう方が身体にとってはおすすめかも知れません」
最後にキズキ青年は、「嫌で無ければ」と付け足す。
僕は思案する。船と陸地には僕を含めて合計で6人の人がいる。只今は陸地3人と船内3人の状況。陸地には僕、キズキ青年、それと1人の初老過ぎ位に見える男性がいる。船内には若そうな女の子2人、それと若い男性が1人。
男性3人に対して、男性1人に女性2人。状況を情報に簡素にまとめてみるとこんな感じだ。まとめてみると分かりやすくなるが、僕が船内に移動するべきという感じは特に無いな。うん。
だって、日光が強いと言っても遮蔽物が無いと言うだけで、真昼でも無いので日差しが強いという程では無いし、潮風だって数分浴びる程度は肌に塩っぽさが残るほどじゃ無い。
船内の人を見やると、男性も女性2人も身なりには気を遣いそうな洋装に見える。年齢も相まってなのだろうが、それよりも三者三様に肌が白く、日光とは相入れないという雰囲気が醸し出されているのだ。
都会風な綺麗な服と身なりだから虫は苦手だろうみたいな程度の簡単な推測と偏見だ。ただ、船内に入る人間と、外でギリギリまで待機している人間の二つに分けた時、僕は少なくとも後者に寄っていると思うのである。そう、周りも判断したと思うと僕は行動が取りにくくなる。
知らない人の中に自分1人だけというのは随分と心細い、若干名もうすでにグループが出来ているのが余計にやりづらい。
そもそも、僕は1人で来たかったのだけれど、1人で自殺しに行きたかったのだけれど、急遽、旅の道連れで、自殺の道連れで同行する事になった新聞部の彼女がいた筈ではなかろうか。
あいつはどこにいるんだろう。元々、行動力がカンストしてしまっているような彼女だけれど、行動力が行き過ぎて、待ち合わせを放棄したり、遅刻したりする程、抜けているタイプでは無いはずだ。
「もし」
ゆらゆらと1人の意識の中に陥りながら時間に流れていたら、共に地上で船出を待っていた初老過ぎ程の男性が僕に話しかけてきた。
シャツにくたびれたジャケットを羽織った男性は朗らかでかつ整えられたヒゲを生やした男だった。遠くから見た印象ほど初老の老いの部分を強く持っている訳では無く、初々しいというか若々しくも蓄えられた見識によって分別を上手く分けれるようなタイプに見える。
小綺麗でサッパリとした初老である。
「もし、君もこのツアーに参加する若者かい?」
「はい、一応、はい」
「であれば目的は宝探しか、歴史巡りか、あるいは……」
言えない。考えている所悪いが言えない。僕があそこに行く理由は死ぬため何出すよ、ははは……などとは。自分の自殺願望だけはあまり公にするつもりは無い。余計な事を言って、出会う人々との一期一会が後味の悪い物になると死ぬに死にきれない。
僕は出来る限り静かに死にたいのである。欲張りで申し訳ないが、人生で最初で最後が自分の思い通りにならないなんてそんな世知辛い話は無いだろう。生まれた時は自由じゃ無いのだから、死ぬ時くらいはね。
「いえ、友人がどうやらその島について調査したいみたいで」
「それに同行を?」
「はい」
無理がある嘘だろうか。まぁ、そりゃそれだけの付き添いの為に安く無い現金を払うのだから、疑うのは妥当である。正気では無い。
しかし、そんな風に考えが右往左往している僕に対して意外にも彼は「あぁ、やはりそうか」と得心したと言った言葉を返す。
「いや、若者との会話の意図を変に汲むような真似をしたくは無いのだがね。ただ、先程船の中に乗っている女性の1人から「浮向京介さんですか?」と質問されてね。君がすぐさっき、自分で浮向と名乗っていたものだからすれ違いになるといけないと思ってね」
厳格に、丁寧に間違いの無い様にと彼は話す。
「そうですか、それは助かりました。手違いあってか、友人とは別人が来ているみたいで、僕も逡巡していた所です」
先に友人に同道する予定と言った事に対しての訂正を交えての文句。僕は勧められるまま、船の中に潜り込む。