人身牛頭11
四罪ヶ楽王断はこの島には居ない。改めて、心の中で反芻する。吐き出して、また飲み込む。僕の自殺計画は大抵、破綻する、首吊りをすればロープが切れるし、ロープを強くすれば、かけられた棒の方がポッキリと折れてしまう。
それが、今まで行った方法、全てに起こり、僕は今まで死ぬ事は無かった。どうしても死ぬ事が出来ないのだ。そんな事情で、僕は前回、世界一の殺し屋に依頼した様に、今回は世界一の極刑屋に依頼しに来た訳だったのだけれど、やはり世界は上手く回っている。
世界は上手く回っている。僕の思いがいつも上手く行かない様に、僕がいつも空回りするのも含め、いつも通り世界は上手く回っている。
こんな事なら、別の候補であった世界一の名探偵に頼む事にすれば良かった、多少時間がかかったとしても。なんでもその探偵は行くところ、行くところには死体が転がるらしい、事件が起き、死人が出るという事らしい。そんなのは僕にとって最高の想い人である事は言うに事欠かないのだけれど、言うけれど。連絡を取る方法が全くと言っていいほど無かったのだ。
住所不特定、顔も分からず、年齢も知らず、性別すら分からない。そんな人間を正確に炙り出す事なんて出来ないから、その線は諦めたのだけれど。無駄になるくらいなら、別の方法を試し続けていても良かったかもしれない。
円形の城を渡る。ずっと続く長い廊下は景色を一向に変化させない。限りない変化の無さを見続けていると気が滅入る。外にはあっけらかんとした青い光が空から降り注いで、雲の形が円形の庭に落ちる。外壁、否内壁と言うべきか、城の黒いレンガ壁を見やる。
回ってきて気がついたが、円形で同じ3階建ての高さの城壁がバウムクーヘンみたいに続いているのだけれど、ここの丁度向かいに飛び出た高さの所が見える。影の落ち方を見るに、そこは円柱の形で天辺は見えない。塔に見える。
塔には旗が掲げられていて、そこには黄色の円形の模様が描かれている。パタパタと体をくねらせて、旗は空気を泳ぐ。
景色は冷気と温もりを織り交ぜて、哀しさを優しさで包み込む様を演じる。ここが極刑城、などという物騒な名前だとは誰も信じないだろう。なぜ四罪ヶ楽王断がここに建物を擁したのかも分かる気がする。余生には十分過ぎるほど落ち着く場所だ。
「すみません、医務室に着きましたので。ここで、管理人、菊花さんに挨拶してもらいます。そこからはそれぞれ部屋に案内して、自由行動となりますので、よろしくお願いします。ありがとうございます」
そうキズキ青年は言う。目の前には大きな黒っぽい木の扉。螺旋階段が隣にある。
キズキ青年は扉をノックする。中からその音に対して、「はい、入って下さい」と声が返される。
キズキ青年に扉は開かれて、僕らはそこから室内へと侵入する。アルコールの匂いが鼻腔をすぐさまくすぐった。
「ようこそ、極刑島へ」キズキ青年は扉を閉まらない様に抑えながら、通り過ぎ様に笑顔でそう言った、改めて。
ゾロゾロとした足音がまばらに揃うことは無く、されど彼女と言う白衣を着た女性の前に目的地は揃う。
「ようこそ、皆さん。極刑島へ、はるばる本島から来てもらって助かるよ。私は春花車菊花、率直に、君たちがここへ来る話を立案したものだ」
「立案したと言っても、偉そうに言っても、だからとして観光客の君たちに私から何か申するつもりは特には無い。本当に自由にしていてくれて構わない。生活の不自由があれば、言ってくれれば良いし、改善できる事は改善しよう。およそ、頼み事に対してこの島で多く答える事が出来るのは私だろうから」
「ただ、君たちはここに居てくれれば構わない。観光者として、見るものを見ていってくれれば邪魔はしない。そう、ただ歴史の証人にさえなってくれれば」
春花車菊花はそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。




