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人身牛頭8


……階段は登り下り、柱を通り過ぎたり、柱に沿ったり、反ったり。またもや方向感覚を失う。どころかもう今がどれくらいの高さにいるのかさえ危うい。


「もうすぐ出口ですので、心配なさらず。」

僕の心の言葉が聞こえたと言わんばかりのタイミングで、都合よくキズキ青年は言葉を発する。


 迷宮に比べるとこちらは早く到着した気がする。敢えて、命名としてここを迷宮とは切り離して考えているのだから、短くても当然と言えば当然なのだけれど。


 重ねて、言い述べるとこの階段の連続している部分、キズキ青年言うところの『迷宮の機軸』部分は迷宮どころか迷路としての役割すら無いように思う。


 上下左右は大迷走中で、重ね重ねで悪いけれど自分の位置すら分かりもしない。真っ暗だ。ここと同じく真っ暗闇の宇宙空間との違いなど、息が出来るか出来ないかくらいのものだった。自殺第一の僕にとってはその違いは大きなものなのだけれど、呼吸が出来れば一般的にはそう違うまい。


 左右、上下、それらは確かにここにいる多くの者には理解出来ていないはずである。でも、僕がこの中で一番飛び抜けて秀でていない人間であると言う、当たり前の仮定を置いたとすると、全員の共通認識として分かる情報もあった。


 そこのところが、ここが迷路ではなく、迷宮でもなく、ただの機軸だと言う何よりなのだろうけれど。蒙昧にして、上下は分からず、左右は知らず。だがしかし、前後ろが分からない訳ではなかった。


 前後ろは分かる。自分が向かっている方が前であり、その反対側が後ろである。こんな幼稚な説明をするけれど、だけれどもそれが唯一の情報でもあった。


 左右に存在する手すりを常に掴みながら階段を登り続けている為、前が入れ替わる事もなく。僕はただ前だけを向き続けている。その前が北か、南か、南西かは未知だけれど、前である。


 キズキ青年が先導している以上に確信を持って、僕は機軸を確かに踏破する感覚を持っていた。迷路では無いから、ここがどうしようもないほど1本線で出来ているからだ。


 ギリシャ神話に言い伝えられている、ミノタウロスの伝説に登場する迷宮・ラビリントス。この難解な構造という意味合いでの迷宮としてのモデルというのがクノッソス宮殿であるという説は話したけれど、ではだとすれば本当はクレタ島に迷宮が存在しなかったのかと言われればそれは違う。


 迷宮はあった。ただしかし、迷路という意味での、暗中模索を必定ひつじょうに求められるものであったかと問われればそれは違ったらしい。それは分岐の一つもない極々簡便に作られた迷路。この機軸のように、長いけれど単純な一本線だった。


 だからどうなのだと、ここで述べる事は無いのだけれど。作者が何故かクレタ島のミノタウロスを意識しているというのであれば、この偶然もまたただ無視するのも違うまい。


 目の前、また一本の柱が現れる。だが、他のものがこの一本線の動線を邪魔しないように距離を置いたり、近づいても線に触れる程度だったのだけれど、この一本の柱は違った。


 動線の目の前、一直線に僕らは向かっていた。一直線に向かって、寄り沿う様に湾曲した。柱と一体となり、一本線は再び螺旋階段になった。


「いよいよ、行くたびに、着くたび、幾数回も申し訳ありません。ではでは極刑島、城下もこれでやっと終わりになります」

 僕たちは、キズキ青年のそんな言葉をもうほとんど流す様に聞き始めていた。グルッと最後の螺旋階段を登る頃には、暗闇と閉塞感はとうに人の感覚を鈍くさせている。だが、それも螺旋から漏れ出てくる作者に除け者にされた太陽の光を感じるまでだった。


 僕たちは辿り着いた。



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