青年郎党6
39
四罪ヶ楽小断の部屋。
扉に鍵はかかっておらず簡単にそれは開いた。開いたのは先頭を歩く鳩野和々だったが、続くキズキも閉まる扉を少し押して入った。
初めて入った。キズキはそうな事を思いつつ、景色を眺める。四罪ヶ楽王断の部屋には幾度か入った経験がある、間取りはその部屋とほとんど変わりは無い。調度品の類も、示し合わせたように似たような物が並んでいる。
「それで、ここに抜け道があるんですね」
抜け道。ミノタウロスが四罪ヶ楽小断を連れ去る為に利用したその道が必ずこの部屋にはあるはずだった。
「大方、予想はついているんだ」
鳩野和々はそう言うと、迷う事なく中央の柱へと向かう。それを矯めつ眇めつ様々な角度から観察し、触っていく。
「あぁ、これだ」
言って、柱の一部を簡単に外した。
「……あの、壊しても良いんですか」
「壊れてたんだ、壊したのでは無くな。ずっと前からこの壁は外れるようになっていた」
「キズキ、君も手伝ってくれ」
言われて、少し迷ったが自分の今している行為を振り返ればこれくらいの事はどうと言う事ではない。彼女達が中心で行っている事がそもそもおかしいとさえ、彼は自分に言い聞かせられる。
「長い塔を支える軸の役割、それと昼夜を切り替える旗を引き上げる仕組みがこの柱だ」
「さぁ、降りようか。キズキ、ロープは見つかったか?」
「本当は庭園に落ちている切られたロープを取ってこようと思ったのですが、それが見当たらなくて。短いですが、倉庫にあったものを拝借してきました」
カバンからロープを取り出すと、鳩野和々はその耐久性を確かめる為に引っ張ったり、足で踏んづけれたりする。
「よし、良いだろう」
ロープの端を部屋の隅に括り付けて、柱の穴から下へ垂らす。
「私から行こう。その次に永遠、キズキの順で入ってきてくれ」
鳩野和々は怖気付く態度は一つも見せずに暗闇の穴の中に入っていく。中には金属製の棒が立っている為、それとロープを器用に使って下に降りていく。続いて、香永遠。
キズキの番がくる。
穴の中にはえもいえない気持ちになる。外とは別の空気に肌身の感触が切り替わる瞬間、温水の中に飛び込むような、変化と違和感の混合を見た。
滑り込む肌を転がる風がキズキを見定めるようである。
キズキは穴に入り込んだ。目の細胞が一瞬言う事を聞かなかったが、次第に慣れてくる。掴んでいるロープから、鉄棒へと軸を移して、ゆっくりと降下する。
ゆっくりと、ゆっくりと。
こういう緊張の最中程、頭はよく回る。鉄棒に体の軸を寄せてはいるが、キズキは腕でロープも掴みバランスをとっている。
このロープが不自然だった。あまりにも静かだったのだ。もう2人の人間もまたこのロープに触れて、バランスを維持しているに他ならない。
であれば、なぜここまでにロープは他の力を感じさせないのか。
まさか、下に落ちてしまった。いやいや、それよりかはロープを話して、鉄棒へと完全に移ったと考える方が妥当か。
……待て、ミノタウロスが待ち伏せしていた、とか。
空気感が焦りを掻き立てる。閉所は体の自由を奪い、思考の枷を外す。与えられた自由を心ゆくままに飛び跳ねる意識はどうしようもなく広がる。
途端、キズキの服はぐっと掴まれる。何が起こっているんだ、頭には異常に血液が回って、神経を研ぎ澄ませる。
「…………降りろ」鳩野和々の声が鈍く広がってから耳に届く。
「足を外側に向けて伸ばしてから、そこに降りろ。足場がある」
「え……?」そっと、聞こえる声の通りに足を外側に伸ばしてから、辺りを探る。そこには確かに足場があった、非常にしっかりとした作りの足場が。
「ここは螺旋階段の内側でもあるんだ。階段の足場は柱を軸にして成り立っている。内側に階段があるのも必然だ」
「しかし、手すりも無ければ灯りも勿論ない。ここはゆっくりで良い。慎重に、壁を頼りに歩いていこう」




