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青年郎党4



 思い出した。記憶の蓋は解き放たれて、頭の中に傾れ込んでくる。


 突然の頭痛が頭を襲い、抱え込むように頭を両の腕で支える。


「あぁ……がぁ……」


 血走る目をギョロっと上に向けて辺りを見渡す。景色の中の色という色が落ちていく。空色に輝いていたはずの青はモノクロの色相へと落ちていき、晴れを作る太陽は最初から無かったように分厚い雲に隠されている。


 反射光が無くなった部屋の中の空気は途端に色褪せて、暗く重くなっていく。鳩野和々の無表情はここまで明暗がつけられないほどに黒を基調としていたか、香永遠の優しさげな顔は今にはもう存在しない。


 陰惨が一面に付着している。


「やはり、医者である彼女がこの役回りはやるべきだった」鳩野和々の言葉。頭に幾度か反射する。


「解離性健忘。過度なストレスや心的外傷から記憶を閉じ込めてしまう状態。一種の精神的な防衛本能だともされている」

「君は特にその症状の発生が顕著だと言う。私の表現では、君は起こりやすい癖に陥っている」

「君は特定の場面的ストレスに出会った場合、それに関わる記憶の全てを消す傾向にある」

「こと、以前までと違う現実への変化、人の死などの大きな変容をきっかけにそれは引き起こされやすい」


「……菊花さんが言ったのですか?」


「あぁ、ここに来る前に彼女から聞いた。そして、この事について彼に説明し、失った記憶の事を思い出させるようにと、な」


 春花車菊花の顔がふわりと浮かぶ。判然としない頭の中では彼女の顔は輪郭を強く、表情を濁らせて再現される。


 目がまわる。いや、景色が回っているのか。何が動いているのか。


「少し時間を作ろう。またここへ来る」


「和々先輩、そんな時間はありませんよ。私達の目的もあると言うのに……」


「それはあるが、彼の状態は無理に働きかけると却って悪影響になりかねない。確実に思い出す方向にはある。時間をかけるべきところだ」


「…………」


「待ってください、2人とも。大丈夫です。思い出せます。言葉にも出来ます」

 キズキは頭を自由自在に巡る様々な思考の方向を少しずつ整理つけていく。戻ってくる情報をゆっくりと組み立てて、後から思い出す部分的な記憶を繋げ合わせていく。


「大丈夫か?」


「はい、すみません。思い出しました。はっきりと」


「……そうか、それなら教えてくれるか」


 キズキは一呼吸をつける。


「……自分はあの部屋を、四罪ヶ楽真空様の部屋をたまらず飛び出してから、どこか逃げ場を探して走り回ったのです。庭園に出るのも、中にいるのも何か体にまとわりつく嫌悪感を拭うには不十分な気がして。自分は城の屋根に登ったのです。小断様、王断様の部屋へと繋がる螺旋階段の途中にある扉から出られるのですが、そこはどこよりも風が吹くので、心の内の埃を払うのにはうってつけで、たまに来る場所でした。平穏があると思って」

「そこで見たのです」


 静かに2人はこちらに聞き耳を立てる。闇の中に光る蝋燭の光に手をかざすように一つのキズキの言葉を柔に待つ。


「自分はそこで見たのです。確かに見たのです。それはミノタウロスの姿だった。そうその時の情報を誰かに口走った記憶はあります。菊花さんだったか、あぁそれは知っていますよね」

「けれどそう、自分はミノタウロスとしか言わなかった。自分が見たのは『登るミノタウロス』でした。上がる夜の旗のロープに捕まって、登っていく狂牛の姿」

「それが窓を開けて侵入したのを見た。そして、自分はその先までずっとそれを観察していたんです。その姿はそう、その後までずっと窓から出てくる事は無かったのです」


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