表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/132

青年郎党3



「事件は異様な風体をしている。3本の事件が同時に起こって、それが共にミノタウロスに関している。馬鹿馬鹿しいが、まさに異世界が現実に侵食するような感覚だ」鳩野さんは言葉の重みに対して、変わらず表情がない。


「昨日の昼、四罪ヶ楽真空を追いかけたミノタウロスという存在もいたが、それは皆のアリバイから唯一はみ出した堂山銅鑼が最有力と挙げられた」


「しかし、彼はもう居ないのですよね」


「…………」


「居ないのですよね?」


「……あぁ、そうだ。簡潔にいうべきではないかもしれないが、そう、彼は自殺した。医者である春花車菊花さん、直々の検分。それに間違いはない」


 堂山銅鑼が自殺した。事実を端的に伝えられた先程と、今、会話の流れで出てきた自殺に鳩野は変化をつけていた。キズキはその言葉と違いとを頭の中で反射させて、跳ね返ってきた気持ちを心に渡そうとする。


「……未だに信じられません。銅鑼さんは度々、自分の前に現れては色々な話をしてくれました。動物、植物、その中でも特に食べられる物の話が好きでしたね。ほら、彼、大きい人でしょう。見えるままに大食漢、そんな風なのですよ。……はははっ」


「………………」


 鳩野和々は何も返さない。途端、変な事を言ったかなと思う。自分の言葉を思い出そうとしたが上手く思い出せない。何かこう、膨らんだもので頭が包まれているみたいな、ナチュラルな感触。


「堂山銅鑼は居なくなった。が、しかしその時、別の場所でミノタウロスが現れた。ここでそれを別のとは表現はしないが、その可能性は勿論考慮している」


「ミノタウロスが真空さんを襲った。はい、そうですね。自分はその結果を直に確認しましたし、手当てもしました」


「ふむ…………」


「でも真空さん、無事だったのですよね。なら良かったですよ。自分の発見も無駄では無かったという事です」


「あぁ、そうだな」


 受け答えがややぎこちない。キズキはまたも自分の話し方を振り返る。本島で生きる人に対して、自分は人との交流が少ない。言葉には鋭敏になる。


「何かありましたか?」キズキはそんな言葉を使う。


 目の前の鳩野和々は彼の顔を一瞥してから、横にいる香永遠へと視線を向ける。香永遠もそれに合わせて、向かい合う形になる。何か示し合わせて、2人ともこちらを向き直る。


「……どう言ったら良いでしょうか」香永遠が言う。


「永遠、私が言うよ」

 鳩野和々は改めるような態度で一度息を吸い込み、弱く吐き出す。


「キズキ、君は昨日春花車菊花さんが来るまでの事を覚えているか?」


 菊花さんが来た時。えと、だから自分がさっき話した通りだ。ミノタウロスとやらに扉ごと突き飛ばされ、逃げられたが、先に人命救助を優先した。四罪ヶ楽真空、奥様は血溜まりの上にいて、それを出来る限りの技術で。技術で、技術で。


 何かが、キズキの中から沸々と湧き上がる。麻痺していた感覚は徐々に明瞭になって、拍動は強く、呼吸は気道を外に押し広げる。


 感覚は時間を増すごとに現実になる。感情が皮膚を這う。


 そうだ。血溜まりとは、安易すぎる。斬創が真っ赤になって、黒っぽく赤っぽくて。見えてはいけない塊が酸化によって固まって、崩れるみたいに皮膚は白くなる。辺りは異常な緊迫による音と現実の無音に包まれる。抑えても、抑えても血が出る。噴き出る、湧き出る。


 キズキは嗚咽を吐く。内容物が出ない程度には抑える余裕はまだ体には残されていた。けれど、溜め込んでいた脂汗がどっと背中に溢れて、衣服に染みていく。腕から腹部にかけて熱。


 忘れていた記憶。否、自分自身忘れていたい記憶を思い出す。


 斬創は、温い血は、鉄のもったりとした匂いは、暗闇は、キズキの中に鮮明に思い出されていく。限りなく画素が多くなっていく景色は他の記憶を押しのけんばかりに拡大する。


 けれど、これもまた全てではない。


「自分はあの時、そう、あの時、菊花さんが来てから、駆け出した。何も悪い事はしていないのに、逃げるみたいにして走り去ったんだ」

 目の前の情報があまりにも自分に受け入れ切れるものではなくて、でも、でもその時はまだ自分だって気が動転していただけだったんだ。

「そう、そんなの受け止められる訳が無いじゃないか。この島は平和だったんだ。それだけが自分の誇りで何かが起こり始めていたのは肌身で感じていたけれど。でもそれでも……あんな風に奪うのは」


 彼女が、四罪ヶ楽小断が、死の目前に人生を迷う自由があったであろう彼女が連れ去られた。それが何を奪ったか、それを自分は確認していた。目視していた。そう、その時、意識を本当に失ったのだった。




 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ