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前夜暗闘18


37


 月の光が天窓から落ちている。目が覚めたのは19時を少し過ぎた頃。――相変わらず静か過ぎる夜だった。


 体を持ち上げる。服は体にへばりついている。布を摘み、引っ張ってぺりぺりと剥がしていく。ただ寝汗をかいただけでは理由にならないほどの汗が僕の体にまみれているのだ。


 それに対して、意識はすっきりとしている。疲労が僕の体から具現化して抜けていったようである。


 医務室は暗く、静かだ。この建物はほとんどの場所がそのような性質を持つ。人の多さに対して建物が大き過ぎる故の性質。


 僕はゆっくりと地面に足をつける。両足で立つと、腕を上に伸ばす。至って良好だ。


 部屋の中に春花車菊花さんは既に居ないようだった。夜に堂山銅鑼のところに行くと言っていたから、21時に迷宮への道が閉まる事を考慮すれば、今の時間が妥当だろうか。


 大丈夫だ。確実にこの島は平穏に向かっている。怪盗が残したミノタウロスの意味も、全てを守るという意味も僕は分かっているつもりだ。


 僕はいつものペースを取り戻した足で軽やかに部屋の外へと向かう。


 廊下に出て窓から塔を見る。四罪ヶ楽王断の部屋が見える。窓は開けっぱなしで、セキュリティなど微塵もない。


「さ、急いでシャワーでも浴びるかな」


 ポツリと言った後、京介は廊下の暗闇に消えた。


 塔には旗が揺れている。陽を表した丸の旗がゆらゆらと変わりなく揺れる。



……………………




 迷宮、地下の一室。

「……あぁ、オレはなんという事をしてしまったのか」手が震える、唇が震える。汗か涙か判別もつかない何かが視界を滲ませる。


「全ての業は必ず周り来る。避けようとて避けられない」

 男は着けていた薄汚い皮の感触を思い出す。この島の業の全てである皮のそれに男は憐れみを向けられている様に感じた。


「ミノタウロスがやって来たのだ。十数年の年月を越えて、忘れる事なく脈々と過去の事実を思い起こさせる」


 男はぐらんと体を揺らす、足が痛む。動くべきだと体は言わなかったが、意志がその動きを運ぶ。手を伸ばして、部屋の隅にある猟銃へと。


「四罪ヶ楽はこうあらねばならない。そして、オレは限りなく四罪ヶ楽の奴隷なのだ。ハハハ……」


 銃口を額にくっつける。熱を帯びた額に対して、銃口は平等に冷たい。しっとりと喉元に汗が転がる。


「……これは呪いだ。伝染するミノタウロスなのだ、全てを消し去らねば止まらない。オレはもう守る方法を知らない。許してくれ……菊花、キズキ、それに、真空」


 ボンと音がして、部屋に広がって角まで振るわせて無くなる。煙が室内に広がる。喉元を転がっていた汗は重厚な赤に追いつかれ共に肌を流れる。


 手の先、足先からじっくりと回った末に、地面へと着地する。そして、迷宮の床へと染み込んでいく。


 ドンドンドンドン。 


 扉を叩くのはおよそ彼女だ。力強く、悲しげな音だ。鍵をかけていて良かった。彼女の手にかかると今からでも生き返っちまうかも知れない。


 走馬灯がうっすらと脳に駆け巡る。暖色の光がぼかされた線で形を作っていく。3人の影。歩いていく背中は同じ方向へと確かに進んでいた。

 

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