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前夜暗闘17



「と、以上が香永遠さんから聞き及んだ情報だ。歩きながら追いかけてくるミノタウロス。問題はそれが人ならざるものの姿をしていたからでは無い」


「……そうですね。問題はそれがミノタウロスの姿であり、何よりも四罪ヶ楽真空の前に敢えて現れたという事実でしょうね」


「ミノタウロスの手紙の差出人と今回の犯人は同一人物と見ていい。その行動も一致しており、四罪ヶ楽真空に生命の危機がある事を仄めかし、相続権を放棄させる事が目的だろう」


「理には叶っていると思います。けれど腑に落ちない点もあります」


「どういったところだ?」


「四罪ヶ楽真空の相続権を奪う方法は何も自身にその権利を放棄させるだけでは無いと思います。命を軽んじる訳では無いのですけれど、殺して仕舞えば、それで終わる話であるとも思うのです」


「それは言えているな。殺す覚悟が無かったのか、はたまた殺せない理由でもあるというのか」


「それは分かりません」


「……ふむ、よろしい。十分な推測だな。ミノタウロスが迷宮内を駆け回らず、歩きながら彼女を追いかけていた事とも合致する」


 ようやく、春花車菊花さんの張り詰めていた空気感が一山を越えた。命の危機が去ったというのが、彼女の中では大きな割合を占めているようである。


「それに私だってミノタウロスを実在している化け物だとは思っていないのだよ」


「分かっていますよ。だからこそ、その可能性をあなたは既に確かめているはずだ」


「君と鳩野和々、香永遠と催馬楽古学と狙われた四罪ヶ楽真空、私とキズキ。今、挙げた人々はそれぞれアリバイを成立させ合っている。ミノタウロスが現れた段階で1人だった人間は限られている」


「番人・堂山銅鑼ですね。彼なら、迷宮内に突如として現れ、真空さんを脅かす事も可能ですから」


「既にキズキには堂山銅鑼の元へ伺ってもらったが彼は頑なに出ては来なかった。壁を開ける事もなく、出てくる素振りもない。すぐにでも話を聞きたいけれど、出てこないのであれば急ぐ事も出来ない。今はとりあえず、キズキに庭園中央の出入りを見張ってもらっている」


「動機がどうも見えませんがね」


「そこが私にもよく分からない箇所なのだ。もし、堂山が犯人だとしても何に突き動かされているのか」

「まぁ、君が気にする事ではないよ。身内の話が更に込み入っただけさ。この話を君にしたのは手紙の事を話したついでの様なものだ。今夜、私が直々に堂山のところへ向かう。そうすればこの事件の全容は自ずから見えてこよう」

 春花車菊花は遠くを見ながら言った。振り返って、僕には自分の背中だけを見せる。


「迷宮の中に新聞部の荷物がそのままにされているかも知れませんが、退かさないであげてくださいね」


「ははっ。もちろん、君達の邪魔をするつもりは無いよ。散らかしていても、勝手に片付けたりはしない」彼女は久しぶりに小さく笑って、僕に答えた。


「誰も死なない……それならば何が起ころうとも私は構わない」

「その為にも、君はもう休め。傷は思っている以上に体を疲弊させる。動けるか否か以上に休息は必要だ」

 春花車菊花は去る。同じ部屋には居るだろうけれど、僕に気にされる事が無いように、小さな音も立てずにただ自分の椅子に戻った。


 僕はベッドで寝返りをうち、彼女に背を向ける。頭にはどうしても離れない、彼女の一瞬の肩の震えを反芻しながら。

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