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極刑島1

登場人物紹介


浮向うわむき 京介きょうすけ

志願者


四罪ヶ楽(しざいがらく) 王断おうだん

極刑屋


四罪ヶ楽(しざいがらく) 小断こだち

極刑屋の娘


春花車はるかしゃ 菊花きっか 

医者


堂山どうやま 銅羅どうら

番人


キズキ

雑用


催馬楽さいばら 古学こがく

歴史研究家


陽路かげろ 影牢かげろう

怪盗


かおり 永遠とわ

大学1年生


鳩野はとの 和々(わわ)

大学2年生


四罪ヶ楽(しざいがらく) 真空まそら

極刑屋の妻


大蝋翼だいろうよく 機刻きこく

発明家


 0

 朝日が垣間見える頃。小舟はゆるりとその島へと向かう。方角と位置、ただそれだけの情報だけがその船上の命綱だった。何日間もの航海は竜骨を腐食して、みしりみしりと嫌な音を掻き立てる。

 

 オールは1人の少年の手元に横たわる。乗組員の1人にして唯一のその少年は疲れが顔に染み滲みしていたが、その瞳孔は強い。確かにここまで船を進めて来た人間の慎重さと勇敢さを兼ね備えたようなものだった。彼はたった1人でこの島にまで辿り着いた。


 竜骨がその島の港に小さく当たる。少年は何も言わずに波止場に船をつけると、心なしか細くなってしまった右足を地につける。波に慣れきった体はおかへの認識を大きく誤ったか、ぐらりとした視界が彼の体を大きく揺らし、地面へと着けさせる。


 少年は慣れるまでは這って行った。少しでも早くその島の奥に進まなければ、行けないんだとそう感じた。無我夢中に全身に力を込めて、進み数メートル進んだところでようやっと二足で歩くことが叶った。


 波止場に連なる海浜などと言うものはその島には存在しない。ただ直線上にある迷宮への入り口をどうしようもない喉の乾燥と断裂感を感じながら、ひりひりと見上げて唾を呑み、また先を見据えて歩みを進ませる。


 迷宮に入るとそこには道標があった。白い鱗のようなものの山である。少年はそれが何かすぐに合点がいった。少年が1人でここへ来れたのも、ここから先へ進めるのも、ただある1人の協力があったからだと言ってしまって差し支えは無い。


 彼女は姿を見せないけれど、確かにこの島にいることは感じ取ることが出来た気がする。1人の少年からすれば、そのような感覚でさえ心細さの有り様からすればひどく頼りになるものだった。


 迷宮の奥へと潜り込む。鱗のような彼女が置いて行った道標をどんどんと進み、進む。白い鱗だけが少年の目には映し出されて、その鱗が描く線は一本道でひどくキラキラしていた。


 少年は奥地へ到達する。左側に光の差し込む螺旋状の階段がそこには現れる。鱗はまだそこに続いている。カツコツと足を進める、進める。日の光が空へと昇る、生きている迷宮はうねりを上げ始める。取り逃してしまった少年を悔いるように嘆くように、壁と床がズサズサと移動する音が迷宮中に響き渡る。


 螺旋階段は出口へと向かう。光とそれに照らされた鱗が正しさを証明する気がした。登り切る。少年は息をつく。光は視神経から脳を刺激する。少年は疲労から意識を刈り取られる。芝生の生えた土地、そこには黒い城が建っていた。 


1

 ピンポーン。一つ、僕の部屋のドアホンが音を上げる。音が家具の少ない部屋の中を反射して、空気中に霧散していく。いつのまにか、空気中に音は満遍なく広げられたと言うのに、しつこく耳の中では反射している。


 しかしながら、不可解だ。悲しいことだけれど、僕の家に僕を尋ねてくる人間はおよそ居ないはずなのだ。居ないのが正常だろうし、居て仕舞えばそれは明らかに僕に不利益になる場合がほとんどなはずで。何なら、僕の部屋に僕を尋ねてくるより、僕の部屋に僕以外を尋ねてくる人間の方が多いくらいかもしれない。間違いテレホンならぬ、間違いインターホンという訳だ。


 だからこそ、僕はインターホンがなろうが、ドアがノックされようが、ドアが鳴ろうが、軋もうが、喚こうが、普段なら微動だにするくらいで特に何と言うこともなく、そのドアの向こうの不思議が通り過ぎるまで待つのがお決まりになっている。


 今日も今日とて僕は部屋の内で不思議が通り過ぎてくれるのも待ち侘びる。とくとくと心臓はなり、何故なのか、僕は少しの音も立ててはいけないような気持ちになる。ドアの先にいる人物に出会うか出会わまいかは僕に委ねられた自由なはずであるのに、その選択肢を与えられる事が僕の行動自体を縛っている。何と言う不条理だろうか。


 思案している内に、件の不思議は当に過ぎ去っていったようだった。ドアの中の未知を感じているのは外側からも勿論そのはずである。だからこそ、居留守というのは効力がある訳でこの結果には勿怪の一つもありはしない。


 ただ、不思議は置物を置いていった。置物というか紙切れを、紙切れというか置き手紙を。いや、親しさを抜き去って、置きチラシと言った方が正しかろうと思う。ドアに取り付けられている郵便物入れには一枚の紙が投入されていた。


 投入されたチラシはハラリっと優しく郵便物入れの底に降り立った。紙の一枚など、空気抵抗に簡単に振り回される。落ちる時にすっと直線的に落ちてくれるという事は無く、一枚の紙はひょっこりと入れ物の中から顔を出している。顔を出している、覗いている。チラシはこちらを部屋の中を隅々の砂埃まで舐めまわし見るようである。


 それに気がつくとギリギリと軋む床を鳴らしながら近づき、郵便物入れの蓋を開けて中身を取り出し、そのままの流れで内容を見る。


『諸君』

『破滅の時は来たれり』

『世界の終わりはもうすぐそこまで来ている。理解あるものは連絡なされ』

『電話番号○○○-○○○○-○○○○』

『獄道教』


 何とまぁ刺激的な文言である。伝聞の意図って言うのがここまで直接的だとはてさて何ともぞっとする。内容もその印象の一つに起因しているのだろうが、それにしても字体から色使いからここまで悪辣に、狂気を表現できるものだなと感心を覚えるほどである。


 獄道教、生まれの根本は仏教系の宗教。とっくのとうにその育ちは仏教から抜け落ちて、赤の他人と呼べる程の遠縁のものであるはずである。ただ、近しい言語を用いているだけの異国人と言った風だ。戦後何年か後に密かに生まれ、密かに成長し、そして密かに潰えたはずだったが、どっからかしら誰かが掘り起こしたのか、何にしろ良い趣味とは言えない、未知の終わりを途端に人様の玄関に差し込むのは、聞いてもいない悪い占いを聞かされる様な煩わしさがある。


 話は少し戻るが、言い訳ではなく言わせて欲しいのだけれど、この部屋を訪れる人が僕に会いにくるより僕以外に会いにくる人が多いと言ったが、何も僕と言う1人の人間が途轍もなく、途方もなく孤独で一人ぼっちで、仲間外れにされているからと言う訳では無いと言うことは言わせていただきたい。それはもちろん僕は人並み以上に友達は多く無いとは思うけれどもだからと言ってゼロでは無い。


 確かに自室に呼べる間柄かと問われれば謎だけれど。それを友達とは言わないと誰かしらに咎められるかも知れないけれど。


 別に良いのだ。特に特別な今の状況というのは、孤独になるのが当たり前で、そうでは無い方が異様である。何故かと聞かれれば端的に、ここがつい最近引越しをして、ただ仮の棲家として、賃貸物件を借りているだけという話だからである。


 友達の少ない僕が曲がりなりにも、間借りをした形である。貸してくれた友達は内緒だが、全都道府県、市町村に一軒拠点を構えている大学新聞部のある1人のつてでここを借りている。


 有難い話だけれど、もちろんそれ程に美味しい話がただで転がってくる訳は無い。断じて無い。何なら、このような生活に困ることのない1DKの一軒を貸してくれるというのは、見返りにとんでも無いことを要求されて然るべきだった。


 そして無論、この貸出の代償というのも例に漏れずとても重い。ある島へ渡って欲しいと言う事らしいが。とんだ夏のバカンス、しかしバカンスというにはいささか不穏な船旅、島への逃避行。


 彼女の在籍する大学新聞部が目につけた島というのは聞いて恐ろしき。その名も極刑島きょっけいとうと言うらしい。


 


 

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