08:偽物ラヴァーズ
5月、某所。どこにでもいる男子高校生は、頭を抱えていた。
「はぁ……」
「幸せが逃げるよ、ほら取り戻すために吐いた息吸い戻しな」
「なんだよその理論、一度吐いたため息は戻らねえよ馬鹿」
「なにおう、頑張れば行けるかもしれないじゃあないか。物は試しっていうだろう?」
元気がない俺を心配してか、白が揶揄ってくる。今日1日、ずっと俺を見ていたのかため息を吐いた瞬間に話しかけてきた。優しい奴め。
「それで、沖田さん関係だろうけど僕が助けれることなのかあな?」
「その通り。ゴールデンウイークの最終日にな、約束してしまったんだよ。」
遡ること2週間前、初めて沖田がバイト先に突撃してきた日から4日後の放課後だった。
彼女はいきなり「遊園地に行きましょう!割引チケットがゴールデンウイークまでなんで!ね!」と言い出した。そして俺はソレに押し切られる形で約束してしまったのだ。
「おやおやそれは何とも……、善、君は絶叫系苦手じゃあなかった?」
「そうだよ、勿論伝えたが……」
俺の言葉に沖田は「分かりました!大丈夫です!」と即答した。
「それは……信頼できる言葉だねえ……。酔い止め、要るかい?」
「持ってる、後は祈っておいてくれ」
「勿論、骨は拾ってあげるからね」
戦々恐々とした心持で、俺は当日を迎える。
*
待ち合わせは、駅前ロータリー。
午前十時。
沖田は、白いワンピースに麦わら帽子。制服姿しか見てなかったせいか、妙に大人びて見える。
「先輩、お待たせしました!」
「……いや、ちょうどいい」
電車で一時間。
窓の外を流れる景色を眺めながら、俺は沖田と俺の間に敷かれたルールを頭の中で反芻していた。
期間――1年限定。
目的――俺は彼女に俺を諦めさせるため。彼女は俺の心を射止めるため。
この遊園地での一幕は、今後の動き方をはかる為のちょうどいいイベントとして捉えることとした。あまり深く彼女の中へ踏み込んではいけないし、不用意に過去を探らないようにしないと。ちょうどいい、良き友人としての立ち位置を確立させるため、距離感をはかれ。それが今日、俺に課された任務だ。
沖田は、隣でスマホをいじっている。
時折、俺の顔をチラ見して、にやにやしている。
「何だ」
「先輩の横顔、かっこいいなーって」
「年上を揶揄うもんじゃない」
「また照れてますねぇ、可愛い」
「俺の言葉聞こえてた?」
「ふふ、あ、もうすぐ着きますよ。行きましょう!」
俺は、照れてなどいない。
決して、絆されてはいけない。
*
遊園地に着くと、周りは家族連れやアベックであふれていた。少しばかり疎外感を覚えつつ、俺達は入場ゲートをくぐる。隣の沖田はワクワクと口にしながら園内の地図を広げていた。
「さ、どこから行くんだ」
「先輩はどれから行きたいとかあります?」
「特にない、君に合わせるよ」
俺の言葉の後、沖田はしばらく頭を左右に振った後、遊園地の最奥の施設を指さした。
「観覧車か。初っ端に?」
「えぇ、行きましょう!」
入り口から結構歩いて、俺達は観覧車のゴンドラに乗り込む。
開園間もなくという事もあってか、並ぶことなくスムーズに乗ることができた。成程、初手で観覧車に乗ったのは混雑回避の意味もあったのか。中々に策士だな、沖田のやつ。
ゴンドラが、徐々に上昇する。
街が、どんどんと小さくなっていく。
「あ!見てみて先輩!あれ、学校ですよ!部活してる人たち見えますかね!」
「見えるわけなかろうが、お前の目は隼か」
沖田が、俺の服のすそを引く。
「ねえ先輩。もう1か月すぎますね、告白してから」
「そうだな」
「どうですか、私は」
「――質問の意図が分からんな、どれだけ一緒に過ごそうが君は君だろう。」
敢えて、彼女の言葉を深読みしない。
「そうでもないですよ、人は変われますから。勿論変わらないところもありますけど」
「そういうものかね。」
「私、きっと――」
そこまで彼女が言ったところで、ゴンドラがガコンと揺れる。下降を始めたのだ。
なんとも俺にとって都合の良いタイミングだ、彼女の言葉をうまい事さえぎってくれた。小説のようなことが現実に起こり得るとはね。
「今の言葉の続きは、いつか聞くとしよう。ほら、下降を始めたからしっかり座ってな。危ないぞ」
「えぇ~。別に待たせるほどの言葉でもないんですが、まあいいでしょう。私、先輩から聞きに来るのを待ってますよ」
「……あぁ、いずれ、な。」
残り4分の1と言った位置で、沖田が俺の肩に頭をのせた。
「先輩のにおい、落ち着きます」
俺はそれを拒むことは出来なかった。
*
観覧車を降りたら、次はジェットコースターだ。
「薄々そうなるとは思っていたよ」
「えへへ。」
「えへへじゃねえんですよこのおばか」
本当に無理であったのなら、俺は頑として拒絶しただろうがそうではない。そもそも乗ったことがない為に耐性がついていないだけだから、今回は沖田の懇願に折れてやることにした。
「先輩、手……握ります?」
「馬鹿言え、俺の両手は安全装置を握るのに埋まっとるわ」
血管が浮き出るほど強く安全装置を握り、俺は呼吸を整えた。
ガタガタと音を立て動き出す機械。
上昇。
落下。
俺は叫んだ。
「うぅおぁああ!」
「ふぅーっ!」
およそ人生初めての絶叫マシンは、地獄のように感じた。好き好んでアレに乗る人の気がしれんと心の中で毒吐きながら、俺はマシンから降りた。
「楽しかったですね!先輩!」
沖田は笑っている。
「あぁ、そうだな。君と同じように俺の膝も笑っているよ」
「えぇ、じゃあ次のフリーフォールはやめときます?」
――沖田は俺を殺す気だったのだろうか。
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