07:日暮れラヴァーズ
ある程度まとまったので、また書きだします。
恋愛っていいですねえ
昨日と打って変わって、昼食までは特に何事もなく平穏無事な日常が送られていた。昼食はあたりまえのように沖田が俺の分の弁当まで作っていたのは少し呆れたが、もはや慣れつつある自分の適応能力の高さに驚きを覚えた。
「先輩、今日は放課後どうなさるんです?」
「どうってなんだ?質問の意図が分からん」
「んもう、なにいってるんですか。放課後にカップルがなにをするかなんて、きまってますよう」
もぐもぐと沖田のお手製お弁当を貪りながら、俺は彼女の言葉を脳内で繰り返す。
カップルが放課後に当り前に行う行為。なんだ、買い食いか?
「え、ぱいせん……本気でわかってない……?」
眉を八の字型にして、青い顔をする沖田。
なんだというのだ。そんな共通認識のように言われても、知らんものは知らんのだ。
「全くぅ~しょうがない先輩ですねえ、こうなったらこの可愛い可愛い栞ちゃんが教えてあげましょう」
「厚かましさと自己愛がとどまるところを知らんな君は」
「それほどでもあります、うふふ」
鼻高々と息をまく沖田は、俺にカップルのなんたるかをこんこんと説いてくる。
曰く、付き合いたての男女は常に一緒にいてイチャイチャするのだとか。
「ですので、今日から特に予定がなければ私と一緒に遊んだり勉強したり、色々しましょう!あ、勿論予定が埋まっていれば行ってくださいね?」
「そうして最後にこちらを気遣うセリフを混ぜることで断りづらくする作戦だな?策士め」
「えっへん。伊達に先輩の彼女(仮)やってませんよ」
人付き合いの経験が極端に少なかった弊害がこんなところで出るとはね。これまで友達と放課後何かをするなんてことは片手の指で足りるほどしかしてこなかったからな。
「じゃああらかじめ言っておくが、月、火、金、日曜を除いて基本的に俺はバイトだ。」
「あ、そうだったんですね。だから放課後待ち伏せしてもいない時が多かったんだ」
沖田の言葉に俺は固まる。
この何度目だろうかという経験だが、一切なれる気配がない。
「……あえて、今の言葉を深堀りはしまい」
「はぇ?」
わざとなのかそうでないのか。あざといしぐさを見せる沖田。
「さ、分かったらさっさとあきらめて帰りなさい。今日は件のバイトの日だ。」
「あ、おじゃましても?」
「別に止めやしないが、何の変哲もない飲食店だぞ?俺も単なるバイトだから君を特別扱いできるわけでもない」
別に来ても何も楽しくないだろうし、俺はやんわりと来るなと告げた。
酒なども提供する飲食店の為、そこまで女子高生が好むような食事を提供できるわけでもないため俺などにあうためだけに時間を使うことになってしまう。勿体ないお化けが助走をつけて殴ってきそうな時間の使い方だ、止めた方がいい。
「また先輩変なこと考えてません?」
「またとは何だ、人がしょっちゅう変なこと考えているみたいに」
「違います?」
「違わないが」
沖田の言葉を否定できないのが悲しいが、事実なので受け取るしかない。
「まぁ、忠告はしたからな。来ても別に何にもならんから来ない方が吉。もし来るのであればそれを重々理解したうえで来るように」
「わっかりましたとも!」
全く、返事はいいんだから。この声色からして、恐らく沖田はバイト先まで来る気満々だな。
なんとなくだが、彼女の感情が少しわかってきた気がする。
*
日暮れの22時。俺は制服から着替え店の裏口から出て歩道を沖田と歩いている。
彼女は宣言通りに俺の働く飲食店まで足を運んできた。
全く……わざわざ混雑時を避けて俺が退勤する前に入ってきよってからに。おなごがこんなに遅い時間に出歩いては危ないだろうが。
「バイトがない日はできるだけ一緒に帰るから、こ~ゆ~事はできるだけ控えたまえ。」
バイトも終わり、帰りのバスが来るまでバス停近くのコンビニで時間を潰しているところで、俺は沖田に忠告する。
「えぇ、いいじゃあないですかぁ。ラストオーダーぎりぎりに注文してるわけじゃないし、そもそもあそこ23時ラストって書いてましたよ」
「違う、そうじゃない。危ないと言っているんだ。君の家がどこにあるんかは知らないが、わざわざ来るようなところでもあるまいに。」
今の時期だからこそまだ日没から間もない夕暮れ時。それ故別に来ることを止めなかったが、冬になれば別だ。外が暗い状況で不要な外出はするべきじゃない。
「わぁ、先輩やっさしぃ~」
「茶化すな。これでも君の彼氏(仮)なんだろ?それぐらいはやらないとフェアじゃない」
それに、こんなことは彼氏彼女の関係でなくとも当り前のことだろう。
ほめられたことではない。
「さ、帰りのバスがもう着く。行くぞ」
「はぁい」
時間潰しの駄賃といわんばかりの小銭を使い、俺達はコンビニを出る。
「そういえば沖田よ」
「なんです?」
「君、家はどの辺なんだ?」
勝手に同じ方向だと決めつけていたが、もし違っていれば彼女の時間を無駄に奪ったことになってしまう。しまったな。
「あぁ、一緒の方向なんでお気になさらず。」
「そうか、ならよかった」
*
再三気を付ける様にと忠告し、沖田と別れ俺は家路につく。
もう少しで家に着くというところで、叔父さんとばったりあった。
「んお、叔父さん今帰り?」
「おや、奇遇だね。そうだよ、今日は残業だったんだ」
沖田と別れた後で助かったかな、叔父さんと会おうものならまた騒ぎ出して面倒ごとになるかもしれなかったわけだし。
「彼女とは、もう別れた後だね?」
「んげ、なんでわかるのよさ」
「伊達に君の育ての親してないの、おいたんの慧眼舐めちゃいけません」
考えていることをズバリと言い当てられてしまった。いやはや、侮りがたし叔父さんの目。
「別に変に気を使う必要はないさ、私だって文ちゃんと一緒だ。立派に君の御父上だと言えるように心がけているんだから」
「ははっ、敵わねえなあ」
「そりゃそう易々と敵われたらおいたん泣いちゃうよ、割とガチで――。閑話休題、いずれにしても私はいつでも相談に乗るからね、何でも言ってやって」
有難い。
正直対人コミュニケーションが苦手な小僧には手に余るアクシデントだと思っていた。酸いも甘いも知る大人の知恵を借りられれば、どうにかなる気がしてきた。
「あぁ、ありがとう。」
「さ、家に入ろうか。もう遅いから早く寝ないと、きっと明日もにぎやかになるよ」
「そうだなあ……さきが、思いやられる……」
「はは、何。そう悪いことじゃあないさ。きっと君にとって素晴らしい日々だったと思えるようになるよ」
叔父さんの言葉を受けて、俺は家に入った。
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